養命酒ライフスタイルマガジン

生薬百選

生薬百選100
人参(ニンジン)

2004年12月に端を発した生薬百選も、ついに最終回を迎えました。締めは、かの有名な生薬「人参」について紹介させていただきます。
日本の医薬品に関する公定書「第十六改正日本薬局方」には、「オタネニンジン Panax ginseng C.A.Meyer (Panax schinseng Nees) の細根を除いた根又はこれを軽く湯通しされたもの」として収載されています(写真1)。

写真1.生薬「人参」
写真1.生薬「人参」

基原植物の「オタネニンジン(御種人参)」は、写真2(左)の植物で、野菜のニンジン(キャロット)とは別物です。
名前の由来ですが、「御種」は江戸時代の将軍徳川吉宗が国内で栽培する目的で各藩に種子を分け与えたため、「人参」は根のかたちが人に似ているためとされています。別名は、「朝鮮人参」または「高麗人参」ですが、これは伝来してきた場所に由来するもので、主な産地は朝鮮半島から中国の吉林省とされています。なお、学名の「Panax」は、ギリシャ語で「万能薬」という意味だそうです。

写真2.オタネニンジン(左)と栽培するための小屋(右):八ヶ岳薬用植物園にて
写真2.オタネニンジン(左)と
栽培するための小屋(右):八ヶ岳薬用植物園にて

日本における御種人参の栽培は、主に長野県丸子町、福島県会津高田町、島根県大根島で行われています。苗はインターネットでも入手できるようで、近所のホームセンターでも1株2000~3000円で販売しているのを見かけたことがあります。しかし、直射日光と高温多湿を嫌うため、日本での栽培は非常に難しいとされています。植物園などでは、写真2のように日光と降雨を避けるための小屋の中に植えられていることが多いです。
余談ですが、日本にも類似した植物「トチバニンジン(別名:チクセツニンジン)Panax japonicas C.A.Meyer」が自生しています。この植物の根はニンジンの代用品として用いられてきたようですが、こちらは栽培も容易で、以前は当社の見本園内にも生育していました(写真3)。

写真3.トチバニンジン(2007年6月 弊社研究所にて撮影)
写真3.トチバニンジン
(2007年6月 弊社研究所にて撮影)

さて、人参の薬効ですが、胃腸系・呼吸器系を活性化させ、生体の持つ恒常性を保持して免疫機能を高める作用があり、強壮強精、消化促進、下痢止め、精神安定、血糖降下、強心、保温、抗疲労など幅広い効能が期待されています。
成分は、サポニン類(ginsenoside Rb1、Rb2、Rc、Rdなどのprotopanaxadiol類、 ginsenoside Rg1、Rg2、Re、Rfなどのprotopanaxatriol類)、アセチレン誘導体(panaxynol)などが報告されています。
御種人参は、古くは中国の古書「傷寒論」に記載があり、日本でも奈良時代には既に知られていたようです。江戸時代には肺結核にも有効とされており、新撰組の沖田総司も試していたとかいないとか・・・。現在でも、人参湯、十全大補湯、補中益気湯など多くの漢方薬に配合されています。弊社でも、「薬用養命酒」をはじめ、香りのお酒「ハーブの恵み」、指定医薬部外品「ハーブプラス」などに使用しています。 生薬「人参」は、これからも多くの方々の健康に末永く貢献していくことでしょう。

花岡 信義(養命酒中央研究所 上級研究員)

【編集部よりお知らせ】

『生薬百選』は、この第百回をもちまして連載終了といたします。長きにわたり、ご愛読いただきありがとうございました。この連載を通じ、生薬についての理解を深めていただけることがございましたら、弊社研究員ならびに弊誌編集部一同、幸いに存じます。ただいま、『生薬百選』に代わる新コンテンツを準備中ですので、どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。

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