養命酒ライフスタイルマガジン

生薬百選

生薬百選91
山薬(サンヤク)

この生薬の外見は、まるで太いチョーク(白墨)か石膏で作った棒の様に見えます(写真1,左).また、漢字で「山薬」の文字を見ると少なからずの人が「山のクスリって何?」と首をかしげますし、片仮名でサンヤクと書いてあると「相撲の何かかしら?」と思う人もいるようです。
この山薬(サンヤク)は、れっきとした植物由来の生薬で、中国の薬草の代表的な古書である「神農本草経」にもその記載があり、虚弱体質を補い、胃腸の調子をよくし、暑さ寒さに耐え、耳や目をよくし、長寿を保つことができると書かれています。
実は、八百屋やスーパーに普通に置かれている「山芋」がこの生薬の正体(基原植物)で、昔は山に自然に生えている自然薯(ジネンジョ)が使われていましたが、現在では主に畑で栽培された長芋(ナガイモ)が使われています(写真1,右)。

写真1 生薬の「山薬(サンヤク)」と基原植物の「山芋(長芋)」
写真1 生薬の「山薬(サンヤク)」と基原植物の「山芋(長芋)」

日本で栽培または自生している「山芋」は植物の分類学の上では、主に長芋、自然薯、大薯(ダイショ)の3種類に分けられます。また、野菜流通の現場では、山に自生している物を自然薯や“山の芋”と呼び、栽培された物を“山いも”または“山芋”と呼び(書き)区別しているようです。なんだか頭が混乱してしまいそうですね。
また、生薬である「山薬」は、この山芋の皮を除いたものをそのまま乾燥させたり、あるいは蒸してから乾燥させたもので、主な含まれている成分には、デンプン、糖蛋白質、アミノ酸、ステロール、dioscoran A~F、dioscoreamucilage B、choline、allantoin、mannan、diastaseなどが知られていて、主な薬効としては男性ホルモン様作用、免疫賦活作用、血糖降下作用などが報告されています。「山芋」は縄文時代から食べられていたそうで、日本人には古来より馴染みが深い食材であり、薬(生薬)としても我々の生活にとても役に立つ植物です。
「山芋」は日本各地で栽培されており、青森県、北海道、長野県が有名です。長野県では、中信や北信地方で栽培が盛んに行われていますが、実は、弊社の駒ヶ根工場がある南信地方の伊那市高遠町上山田地区でも「山芋(長芋)」が栽培されていて、ここの物は味が濃くてとても美味しいと評判で、遠方からわざわざ買いに来る人が沢山いるそうです。8月の中旬にこの近くを通りかかった時には青々とした葉が茂り、小さな花が咲いていました(写真2)。「山芋」の収穫は11月上旬頃ですので、私も買いに行きたいと思っています。

写真2 長野県伊那市高遠町 上山田地区の長芋畑と長芋の花
写真2 長野県伊那市高遠町
上山田地区の長芋畑と長芋の花

最後に、手前味噌で恐縮ですが、この「山芋」を使った商品を地元味噌メーカー(株式会社 丸高蔵)と弊社研究所で共同開発し、「慈養みそ」として今年の春から発売を行っております(写真3)。この味噌は、信州産の大豆と米を使用したこだわりの味噌に、「山芋」やクコの実など8種の和漢スタミナ素材を配合した味噌です。「山芋」が他の和漢素材の個性を一つにまとめていて、汁物に良く合い、とても美味しい味噌汁を作ることができます。本商品は、弊社の健康生活提案型複合施設「くらすわ」および駒ヶ根工場「健康の森」で販売しておりますので、一度お試しいただければ幸いに存じます。

写真3 「慈養みそ」
写真3 「慈養みそ」

石塚 康弘(養命酒中央研究所・基礎研究グループ)