養命酒ライフスタイルマガジン

生薬百選

生薬百選58
茵蔯蒿(インチンコウ)

師走のこの時期、忘年会、クリスマス、お正月、新年会などなど、何かとお酒を飲む機会が増える季節となりました。この時期にふさわしい肝臓にやさしい生薬と言えばウコンが有名ですが、ウコンはサプリメントなどでかなり有名ですし、弊社HPでも紹介されているので、今回はチョット変化球と言うことで「茵蔯蒿(インチンコウ)」を紹介します。

「茵蔯蒿」はキク科(Compositae)のカワラヨモギ(Artemisia capillaris Thunberg)という植物の花蕾(頭花)を乾燥したものを生薬に用います。名前の通りヨモギの仲間ですが、葉は細く繊細なイメージの植物です。

「カワラヨモギ」の植物名の由来は、単純に河原に生えているヨモギの意味からきていますが、生薬名の「インチンコウ」の由来は、この植物が冬になっても植物の一部(株)が枯れずに冬を越し、翌年の春にそこから新しい葉や茎を出すことから、古い(蔯=チン)株が元(茵=イン)になってヨモギ(蒿=コウ)になることから「茵蔯蒿」と名づけられたそうです。何かしら日本人には無い中国人のこだわりを感じます。

図1 カワラヨモギの全景(8月下旬)
図1 カワラヨモギの全景(8月下旬)

図2 カワラヨモギの頭花(8月下旬)
図2 カワラヨモギの頭花(8月下旬)

「茵蔯蒿」には精油、クロモン類、フェニルプロパノイド類、クマリン類、フラボノイド類などが含まれており、口の渇きを止めたり、尿を増したり、胆汁の分泌を促す働きがあります。主に黄疸(おうだん)や肝炎、腎炎、二日酔いなどに用いられます。また、最近の研究ではアレルギー性疾患を有効に予防・治療できることなどが明らかにされるなど、注目度の高い生薬です。

図3 茵蔯蒿
図3 茵蔯蒿

図4 茵蔯蒿(拡大)
図4 茵蔯蒿(拡大)

カワラヨモギは北海道を除く日本各地に生育する半樹木性の多年草で、河川中流域の礫河原や砂浜海岸などに生育しています。国内では長野県が昔から有名な生薬の生産地でしたが、河川の護岸工事や外来植物の侵入などにより、その数はかなり減ってきているようです。「最近では良い品が手に入らなくなった」との話もよく耳にします。 今の冬の時期では河原に行っても風邪をひくだけでカワラヨモギは見つけられませんが、来春になったら私も近くの河原へ探しに行ってみたいと思います。

石塚 康弘(養命酒中央研究所・商品開発グループ チームリーダー)