生薬百選
生薬百選57
地膚子(チフシ/ジフシ)
私たちの研究所(標高800m)では、10月下旬~11月中旬にかけて木々の紅葉がみられます。一方、当所の圃場ではその1ヶ月以上も前から下の写真のように一際目立つ「紅葉する草」がみられます。今回はこの植物「ホウキギ」についてお話します。
2005年9月26日撮影(紅葉したもの)
2005年8月27日撮影(青い状態)
ホウキギ(学名:Kochia scoparia (L.) Schrad. )はアカザ科の植物で、平安時代初期に中国より渡来したとされています。名前の由来は、茎を乾燥して掃除用具の「ほうき」として用いられてきたことによるそうです。一年草で寒さに強く、当所でも簡単に栽培できます。
日本では、葉や種子が食用とされてきたそうです。特に、種子は現在でも「とんぶり」という名前でスーパー等に売られており、秋田県の特産品で「畑のキャビア」という別名もあります。
薬用には乾燥した種子が用いられ、名前を「地膚子(チフシ/ジフシ)」といいます。下の写真のように、星型の傘のようなもの(花被片)が付いた状態で流通しています。過去に「とんぶり」を見たことのある方は少々疑問を感じるかと思われますが、「とんぶり」は乾燥させた実をいったん煮た後、一日ほど水に浸してから手で揉んで外皮を取り除いたものだそうです。
生薬「地膚子」
成分としては、サポニン(薬用ニンジン等で強壮作用が報告されている)が含まれています。漢方で利尿・強壮剤として用いられ、1回に9~15gを煎じて内服します。中国では公定書「中華人民共和国葯典(2005年版)」に収載されており、内服だけでなく皮膚のかゆみに外用する用法も記載されています。また、薬酒の原料として使われるとの情報もあります。
薬として使用された歴史は古く、中国では後漢時代の「神農本草経」に「膀胱の熱をとる、小便の出をよくする、腎の気を補う、長く服用すれば耳や目が聡明になり、身軽になり、老化を抑える」と記載されています。日本でも平安時代の「延喜式」という書物に登場し、貴族の間で薬として用いられてきたと考えられています。
蛇足ですが、写真のように真っ赤に紅葉するホウキギは園芸品種との話もあります。園芸店では「コキア」という名で販売されているそうです。また、アカザ科には本種以外にもサンゴソウ(アッケシソウ)等秋に紅葉する植物があり、これらにはベタイン系の成分が関与していると思われています。
泊 信義(養命酒中央研究所・主任研究員)