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生薬ものしり事典116

鮮緑色の枝と黄金色の花の調和が美しい「ヤマブキ」

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大判小判の黄金色にも似た山吹色の花を咲かせる

山桜のシーズンが終わりに近くなると、ヤマブキの花が一斉に山を黄金色に染めだします。鼻を近づけるとほんのりとバラの香りが漂い、ヤマブキがバラ科の植物であることを思い出させます。最近は園芸用に植える人もいますが、信州では山麓の湿ったところに自生する姿をよく目にします。ヤマブキは中国の一部にも生育していますが、日本では全土で見ることができ、日本を代表する植物の一つといえるでしょう。鮮緑色のしなやかな枝と、五弁の黄金色の花の調和は美しく、清潔な感じを与えてくれます。花の色から山吹色に輝く大判、小判と表現されるように、古くから日本人に親しまれてきました。また、自然の姿で親しむだけでなく、庭木としても早くから栽培されてきました。

ヤマブキは山間の谷川など湿ったところに多く、また広く人家で栽培されています。バラ科の落葉低木で、幹は直立して束生し、高さ2mくらいに成長します。晩春から初夏にかけて、短い新側枝の先端に直径4cmの花を1個だけ咲かせます。類似植物にヤマブキソウ (山吹草、草山吹)があります。一見ヤマブキと見違うこともありますが、ヤマブキソウはケシ科の宿根草で、花弁が四弁、花が大形なので区別ができます。

ヤマブキの特徴は冬葉が落ちても枝は真緑で、枝の中には真白な発泡スチロールのような髄が詰まっています。江戸時代には、この髄で小さな花や小鳥を作り「酒中花」として酒盃に浮かべて楽しんだという記録があります。また、10cmほどに切った茎の白い髄を細い棒で押し出し、口に含んで歯で噛み遠くへ飛ばしたり、竹鉄砲のようにして遊ぶなど、昔ながらの自然遊びの材料としても使われます。

ヤマブキを一躍有名にしたのは、 太田道灌「簑の故事」と、『後拾遺和歌集』(1087年)に収められている兼明親王(914〜987年)の「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだに無きぞ悲しき」の短歌といえます。確かにヤマブキは一重には果実が結実しますが、八重には果実ができません。自生種ではキクザキヤマブキ(花弁が細い)、シロバナヤマブキ(ヤマブキより花がやや小型)やシロヤマブキ(葉は対生している)などが知られています。

ヤマブキは、『万葉集』(630〜759年) に17首が収載されているように、日本人とのつながりが深い植物です。しかし、同じ頃編纂された『古事記』(712年)、『日本書紀』(720年)、『風土記』(713〜733年)には登場していません。『徒然草』(1331年頃)の139段で吉田兼好が「草は山吹、藤、杜若(かきつばた)、撫子」と自らの価値基準を記述しているように、日本人の間でも好みが分かれるのかもしれません。

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日本名は山吹と表記します。これは山振(やまぶき)という意味で、枝が弱々しく風のままに吹かれて揺れやすいからです。漢名は棣棠(ていとう)で、別名に棣堂花、金棣堂、地棣、金盌、面影草、鏡草などがあります。植物名の棣は落葉樹を表し、金棣堂は花の色が由来、面影草は恋歌の対象であること、鏡草は乾燥した花びらで鏡を拭いたことに由来します。また、一重を山吹、八重を棣堂花と区別する人もいます。

学名のKerria japonicaは、属名はスコットランドの植物学者のWilliam Kerr の名前で、スイスの植物学者がKerrの功績をたたえてつけたもので、種小名は日本固有の意味です。薬として利用する場合、日干しにした花を煎じて生理痛に、粉末を創傷などの患部に塗ると止血や解毒に効果があると伝えられています。

花言葉は「気品が高い」です。

出典:牧 幸男『植物楽趣』

今月の生薬クイズ
【Q.】 江戸時代、酒盃に浮かべて楽しんだ「酒中花」はヤマブキのどの部分を使っていた?
正解は?
【A.】 茎の髄

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