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生薬ものしり事典109

鳥と同名の名前を持つ「ホトトギス」

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杯状の花弁と斑点が目をひく秋の花

秋晴の空が爽やかに澄み渡る頃、ホトトギスの花が目立つようになります。ホトトギスといえば、鳥を思い浮かべる人が大半かと思いますが、植物も華やかさはありませんが、渋さを感じさせるような花を咲かせます。ホトトギスの植物名は、広義にはユリ科ホトトギス属の総称として用いられます。この属の分布はヒマラヤから東南アジア、東アジアにわたって20種ほどが知られており、なかでも日本は、その半数が野生しているホトトギス王国ともいえます。ホトトギスは本州中部以南の山地の半日陰に好んで生える植物で、花が美しいため改良種も生まれ、庭園用や切り花、茶花としても親しまれています。『新訂牧野新日本植物図鑑』には7種が収載されていて、大別すると紫色系統(ホトトギス、ヤマホトトギス、ヤマジノホトトギス)と黄色系統(キバナホトトギス、チャボホトトギス、タマガワホトトギス)と白色変種に分けられます。花期はタマガワホトトギスの7月を除けば、9月から10月頃になります。夏鳥のホトトギスは4月頃に日本に飛来し初秋に帰りますが、ちょうど帰る頃に咲き始めるので、秋の花として知られています。

ホトトギスは花の姿が独特で、杯状の花弁や三裂する雌しべの変わった姿が印象的。多年生草本で、草丈が60〜90cmに成長し、葉のつけ根に小さな百合のような蕾をつけます。花期は10月頃で、花は花弁と花柱とが同色、花被の内側に細かい紫斑があります。ホトトギスは鳥と同じ名前がついているからか、詩歌の世界ではやや人気が低いようです。『俳諧歳時記』(改造社)の時鳥草の項に「キバナホトトギス、タマガワホトトギス、ヤマホトトギスなどの種類ありて、その花愛すべしといえども、この草の名は鳥の名に紛らわしければ、句に草の花なることの確かなるようにありたし。」と記述があります。このことからも、俳句の実作例に挙げない本も見うけられます。詩歌に採用されているものは明治以降が多いようです。

植物名は花被片の斑点を鳥のホトトギスの胸に浮かぶ斑点になぞらえて、優雅な名前となりました。漢名では一般的に、時鳥草や鶏脚草(葉のわきに花が咲く姿から)、花油点草(若葉の頃葉に油をこぼしたような大小の斑点がでるため)、郭公草などがよく用いられます。また、鳥のホトトギスは文学に昔からよく登場しており、それを表現する漢名がたくさんあります。基本的にはその漢名に「草」を加えると植物名にすることが可能なので、参考までに列挙してみます。子規、郭公、蜀魂、杜魂、杜鵑、杜宇、陽雀、不如帰、田長鳥、沓手鳥、催帰、聖帝、謝豹、思帰鳥、勧農鳥、倶伎羅、橘鳥など多彩です。

学名はTricyrtis hirtaで、属名はtres(三)+cyrtos(曲)の合成語。種小名は短い剛毛がある意味で、3枚の外花被の基部が曲がり、茎葉に粗毛があることに由来しています。

花言葉は、「秘めた思い」「永遠にあなたのもの」です。

出典:牧 幸男『植物楽趣』

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