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鼻の雑学

「ヒトの祖先は鼻の穴が4つもあった!」「ゾウの鼻はただの鼻じゃない!?」「“ウソをつくと鼻が〇〇に!”“鼻が〇〇なほうがモテる!”」――今月は鼻の雑学をお届け!

ヒトの祖先は鼻の穴が4つもあった!

「鼻」というと、顔の中央に突き出た部分を思い浮かべる人が多いと思いますが、生物学的には俗に「鼻の穴」と呼ばれる「鼻孔」のほうが先に発達したといわれています。
現代ではまず「見た目」で判断することが多いかもしれませんが、ヒトの祖先はまず「におい」で判断していました。そのため、鼻はにおいセンサーとしての役割がまずありきで、呼吸器官としての役割は後に備わったと考えられています。
では、なぜ鼻の穴は2つもあるのでしょう?それは複数の鼻の穴から入ってくるにおいの濃さの違いで、異性の放つフェロモンや食べもののにおいの元がどの辺りにあるか特定できるからです。2つの鼻の穴は、捕食や生殖のために必要不可欠だったのです。
ところで、かつてヒトの祖先は鼻の穴が2つどころか、4つもあったのをご存じでしょうか? 
地球上の生きものは全て海から生まれて進化しており、魚類は今でも鼻の穴が合計4つあります。魚類の場合は左右に水の入り口と出口があり、水を出し入れしながら、においをかぎわけているのです。
ヒトの顔にも、鼻の穴が4つあった時代の名残が見られます。目頭にある小さな「涙点」は、魚の鼻の穴でいうところの水の出口に相当します。実際、涙が出ると、鼻水も一緒に出てきますよね。これは涙点と鼻がつながっているからです。

ゾウの鼻はただの鼻じゃない!?

ゾウの鼻

ゾウの鼻は、見た目のインパクトもさることながら、そのスペックの高さはさまざまな動物の中でも群を抜いています。東大の研究チームの調査によると嗅覚はイヌの約2倍もあり、嗅覚の高さの指標になる遺伝子は動物の中で最多なのだとか。しかも、鼻でものをヒョイとつかんで食べたり、鼻から吸い上げた水をシャワーのように浴びたり、身体についた虫を器用に払ったり、直射日光から皮ふを保護するために鼻で砂や土を吹き付けたり、水中を渡る時は鼻をシュノーケルのようにして呼吸したり……ゾウの鼻は、まさに生きる知恵が詰まった万能ツールです。
こんなにもゾウの鼻がハイスペックである秘密の一端は、ゾウの鼻を構成している筋組織(ヒトの舌のような組織)にあります。通常の筋肉は骨や関節と連動して動きますが、ゾウの鼻には骨や関節がないので、約4万もの筋組織だけで鼻を自在に動かせるのです。

実は、ゾウの鼻は正確には「鼻」と「上唇」が一体化した器官です。水を飲んだり草を食べたりする時に、いちいち巨大な体をかがめるのは負担が大きいことから、鼻と上唇が一緒に進化して長くなり、自由に動かせるようになったと考えられています。
唯一無二の進化を遂げてきたゾウの鼻には愛情表現の機能もあり、ゾウ同士が互いに鼻をぐるりとからませ合っている時は、ヒトが握手やハグ、キスなどをする行為に似ているのだとか。動物園に行ったら、ぜひゾウの鼻の動きをじっくり観察してみてください。

「ウソをつくと鼻が〇〇に!」「鼻が〇〇なほうがモテる!」――鼻を巡るウソ/ホント

世界的に知られる児童文学『ピノッキオの冒険』(カルロ・コローディ著)の主人公ピノッキオは、ウソをつくと鼻がどんどん伸びます。ピノッキオは丸太から作られた人形ですが、グラナダ大学の研究者は実際に人間もウソをつくと鼻に変化があるかどうかをサーモグラフィーを応用したウソ発見器で検証してみたようです。それによると、ウソをついていた被験者は鼻先の温度が最大約1.2℃も下がり、ほんのわずかながら鼻が縮んだそうです。誇らしい時は「鼻が高い」、得意げな様子を「鼻高々」などといいますが、ウソの話を盛って自慢話をしている人は、実は鼻がヒヤッと冷たくなって縮んでいるのかもしれません。
鼻は、人間の複雑な心模様を象徴する存在でもあります。芥川龍之介の有名な短編『鼻』の主人公である僧の禅智内供(ぜんちないぐ)は、あごの下までぶら下がっている巨大ソーセージのような鼻の持ち主。それがコンプレックスだった禅智内供は、医者に教えを乞い、己の鼻を熱湯でゆでたり、弟子に鼻を踏ませたり、鼻から出てきた脂を抜き取ったり……といった涙ぐましい努力の結果、鼻の短小化に成功します。
ところが、周囲の人々は以前にも増して彼の鼻をあざ笑いました。他人の不幸に同情してみせつつ、それを乗り越えた人に対して再び不幸に陥れたいと願う人間の腹黒さに気付いた禅智内供は、再び元の大きな鼻に戻ってほっとします。かなりシニカルな話ですが、顔の真ん中にある鼻という存在に、逃れられない人間の性(さが)が投影されているといえます。
余談ながら、ボルネオ島に生息する希少なテングザルは、その名の通り、てんぐのような大きな鼻が特徴で、「禅智内供ってこんな顔だったのでは?」というような風貌です。テングザルを研究している中部大学の研究論文によると、鼻が大きなオスほど肉体的に強く、より多くのメスが暮らすハーレムでモテモテだったそう。禅智内供さんにも教えてあげたいですね。