養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 98
日本は「カラマツ」研究の先進国

発汗や外傷に使われたこともある生薬

カラマツは、春の芽吹き、晩秋の黄葉、冬の裸木や霧氷と、季節ごとに味わいがあります。春にカラマツが芽吹いて1~2日経つと、林全体が黄緑色の薄い霞に包まれたような感じになります。芽というより小さな塊状の花の集合体も、春の到来を叫んで伝えているように見えます。遠くの山々に降りはじめた雪が少しずつ根雪になる11月頃、カラマツはいっせいに黄葉し、音もなく落葉します。山径は一面黄色く染まって林間が明るくなり、これから訪れる深い眠りの季節を前に、華やかな装いを見せます。落葉はじゅうたんのようにふかふかで、その上を歩くと優雅な気持ちになるでしょう。

カラマツ

カラマツはマツ科の中で珍しく落葉性の高木で、北半球の気温が比較的低い地帯から海抜の高い地域に生育しています。樹高は20~40m、幹の太さは1mを超えるものもあります。葉は線形で長さが2~3cm、花は5月ごろに咲き始めます。

カラマツは種類が比較的多く、10属3変種の説があります。日本では天然産(いわゆるテンカラ)が4種知られていますが、他は植林用に品種改良されたものです。

明治30年代から日本で本格的な植林が始まり、育苗が簡単で成長が早いことから、カラマツの植林事業が森林行政の政策として取り入れられました。それによって日本は、世界で最もカラマツの研究が進んだ国として知られるようになりました。

カラマツの四季折々の姿に引き付けられるのか、詩歌にもよく詠まれています。

「からまつの林を過ぎて からまつをしみじみと見き からまつはさびしかりけり たびゆくはさびしかりけり からまつの林を出でて からまつの林に入りぬ からまつの林に入りて また細く道はつづけり……」と詠んだ北原白秋の『落葉松(カラマツ)』は、彼が大正10年に軽井沢を訪れた時の吟行です。

からまつは いろづきながら 散るものか 枝々が今朝 骨だちて見ゆ

半田 良平

照ばかり 黄にもみぢたる 一本の からまつを見て 過ぎゆく

斎藤 茂吉

カラマツの名前は、短枝上に集まった葉の状態が絵に描く唐松風に見えることに由来します。

別名には「落葉松(カラマツ)」「富士松(フジマツ)」「日光松(ニッコウマツ)」などがあります。落葉松という名は落葉するからですが、牧野富太郎博士は正しい用い方ではないと主張しています。富士松や日光松は生育地に基づきます。学名はLarix kaempferi (Larix leptolepis)で、属名はケルト語で「富む」、つまり樹脂を多量に含むという意味です。種小名は薄鱗状のことで、樹皮の形状から命名されました。

薬用の利用例として、発汗、外傷、腸痛などに利用したという記録があり、同類のイヌカラマツは抗菌、止血に使われています。

最近は安い外材に押され、手入れがされないカラマツ林も見られます。しかしテンカラは銘木として珍重されています。木材に樹脂が多いのが欠点とされていますが、脱脂技術も進んでいるので、大切にしたいものです。

カラマツの花言葉は「豪放」「豪胆」「大胆」です。

出典:牧幸男「植物楽趣」