養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 67
春に梅のような花が咲く「クサボケ」

「和木瓜」の名で知られる生薬

厳しい冬を過ごしてくると、春の訪れが何よりも楽しみになります。この季節に里山を歩いていると、枯草の中に咲いている「クサボケ」の赤い花とよく出会います。通常は地を這うように枝を伸ばしているので、側に近付かないと気が付かない植物ですが、花の時期になると、精いっぱい伸ばした枝に、葉が芽を出すより早く、華麗な梅に似た赤い花が盛り上がるように咲きます。そこだけがまるで「春本番」といった雰囲気をかもし出しているのです。

クサボケは一般の花よりも花付がよいので、最近では鉢植えにしたり、花木、刈込物、生垣などの用途にも使われています。品種改良も進んで、白色の花や、斑入りの花なども生まれています。

クサボケは本州の中南部から九州にかけて、山野に普通に生えているバラ科の落葉小型低木です。茎の下部は横に伏し、高さは30cm前後、とげ状の小枝があり、葉は倒卵形、長さ2.5~5cm、巾1~1.7cmほどで、早春に葉よりも先に赤色の花が開きます。花には雄花と雌花がありますが、時には同じ株に雄花と雌花が付いたり、雌花しか咲かなかったりする株もあります。クサボケの花について飯沼慾斎が著した『草木図説・木部』(1865年)には、「全花と不全花の二つを具するものの如し。然るやまた『本草綱目啓蒙』(1803年)には、雌雄異株の如く説けり」とあるように、昔から雄花と雌花があることが分かっていたようです。

秋になると、花の数ほど実はならないものの、黄色く熟した径3~5cmの球形の果実がなります。果実はほのかなリンゴに似た香りがしますが、酸味が強く、そのまま食べることはできません。クサボケと類似した植物に、中国伝来の「ボケ」がありますが、高さが2mほどに成長し、果実も大型なので簡単に見分けられます。

植物名については、牧野富太郎博士が「日本名は草木瓜、ボケに似て小型の低木なのでクサと名付けた」と述べています。別名には「木瓜」「木桃」「毛介」などがあります。果実の酸味から、「酸梨」の漢字が当てられることもあります。学名はChaenomeles japonica、属名はchaino(開ける)+melon(リンゴ)で、熟した果実に裂け目ができることを意味しています。種小名は日本に産する植物であることを示しています。

クサボケ

クサボケは古くから薬用に使われてきました。青みのある果実を採取し、横切りにして乾燥したものを生薬名「和木瓜」といい、攪乱(かくらん)や暑気あたりに用いられました。また、熟した果実は薬用酒として疲労回復に利用されていました。

食用としては、青い実を塩漬けにしたり、黄色い果実を砂糖漬けにしたりすると、歯触りがよく美味です。

クサボケが詩歌の対象になるのは、明治以降です。

野に這ひて 草木瓜(クサボケ)の花 あかく咲く 昔のままの ふるさとの道

峯村国一

クサボケの花言葉は「一目惚れ」「平凡」「早熟」です。

出典:牧幸男『植物楽趣』