生薬ものしり事典
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- 【2017年4月号】春を告げる可憐な野の花「レンゲ」
生薬ものしり辞典 55
春を告げる可憐な野の花「レンゲ」
解熱や利尿に用いられた生薬
本格的な春の訪れを告げる野の花のひとつ、「レンゲ」。子どもの頃、一面に咲き誇るレンゲ畑で花を摘み、花冠や首飾りなどをつくって遊んだ人もいるのではないでしょうか。
かつて、レンゲは農耕の始まりを知らせてくれる花でした。レンゲの根には根粒バクテリアが共生して、空中の窒素を固定してたくわえる性質があります。そのため、緑肥や農耕家畜用の飼料作物として、レンゲが田んぼによく植えられていました。
しかし、化学肥料や耕うん機の普及により、緑肥や飼料作物としての役目は終わりました。かわって最近では、畑地の地力増進や養蜂の蜜源として、あるいは農村の地域活性化の一環として、レンゲ畑が少しずつ増えているようです。
レンゲはマメ科の越年生草本です。茎は根元から多数枝分かれして束状になり、地面に広がります。葉には柄があり、互い違いにつきます。春になると葉腋(葉の付け根)から高さ10~30㎝の長い柄が直立し、紅紫色や白色の蝶形花が開きます。
レンゲを薬用に使う際は、茎葉を乾燥させ、解熱や利尿に用いられてきました。
また、食用にする際は、若葉を油で炒めたり、揚げ物や塩漬けにします。
レンゲは中国原産ですが、日本には室町時代頃に渡来した、比較的新しい帰化植物といえます。1709年に貝原益軒が編集した『大和草本』でもレンゲのことが取り上げられていますが、詩歌に詠まれるようになったのは、江戸時代末期以降です。
「野道行けば げんげんの束 すててある」という正岡子規の句にもあるように、レンゲの日本名は「ゲンゲ」で、漢名の音読みに由来しているようです。花が輪のように並んだ様子を蓮の花に見立てて「蓮華草」、花が咲く時期に紫雲が低くたなびくことから「紫雲英(げんげ)」など、レンゲには別名が数多くあります。
「手に取るな、やはり野に置け蓮華草」という句は、野花のレンゲは野に咲いているのがふさわしく、何ごとにも相応の場所があるという意味です。レンゲの花言葉は「あなたがいれば、私の苦痛は和らぐ」「私の苦痛を和らげる」です。
出典:牧幸男『植物楽趣』