養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 52
赤い実が冬景色に映える「アオキ」

火傷や創傷に用いられてきた生薬

新春は暦の上では春の始まりですが、まだ風も冷たく、野山の樹々も寒々としています。そんな冬枯れの景色を鮮やかに彩る植物のひとつが「アオキ(青木)」です。アオキは四季を通して青々としており、厚くて大きく光沢のある色鮮やかな葉だけも観賞の対象になります。初夏にはごく細い紫褐色の花が咲き、花言葉は「若く美しく」です。秋に結実する楕円形の果実は、はじめは青いけれど、晩秋から初冬にかけて赤く色付き、特に雪景色の中ではひときわ見栄えがします。その果実の美しさから、漢名を「桃葉珊瑚」といいます。

アオキ

青木の実 紅をたがへず 月日経る 柴田白葉女

アオキはミズキ科の常緑低木で、日本特産の植物ですが、詩歌に詠まれるようになったのは比較的新しいといえます。「青木」の名は「枝の青いことに基づく」と牧野富太郎博士も述べているように、若い樹皮は緑色で平滑ですが、年を経るとコルク質に変わってきます。

アオキは公園の植栽や庭木としてもよく植えられますが、雌雄異株のため、雌株と雄株の両方を植えないと結実しません。

アオキは外国人にも珍重されており、1690年に来日したドイツ人ケンペルが赤い実の美しさに感動し、帰国後に著書の中でアオキを紹介しています。当時、ヨーロッパにアオキを持ち帰って植栽した人物もいたようですが、雌株だけだったため結実しませんでした。

1890年にイギリス人のロバート・フォーチューンが来日した際、雄株を持ち帰って雌株と一緒に植え、約200年の時を経て、ヨーロッパで初めてアオキが結実したと伝えられています。

近年ではアオキの品種改良が進み、葉の変形したダルマ葉、柳葉、斑入り葉の木や、黄色い実がなる「キミノアオキ」や、白い実のなる「シロノミアオキ」なども生まれています。病虫害にも比較的強いけれど、観賞用に植栽する際は、あまり日当たりがよいと葉焼けするので、落葉樹の下がよいとされています。

アオキ

アオキは民間の生薬として火傷や創傷、凍傷、利尿などに用いられてきました。薬用に使う際は、みずみずしいアオキの葉を金網に載せて弱火であぶり、黒くなる寸前に火を止め、火傷や創傷、凍傷の患部に載せて、軽く包帯で押さえて使います。

また、長野県の民間胃腸薬「御岳百草」と類似処方である奈良県の民間薬「陀羅尼助(だらにすけ)」には、色艶を出すためにアオキが用いられています。

出典:牧幸男「植物楽趣」