養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 4
おせち料理にも、生薬

今年もあと数日で終わりですね。そして新しい年の足音が聞こえてきました。来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
さて年末は、お正月に備えて「おせち」料理をつくり始める人も多いことでしょう。その日本の風物詩ともいうべき料理の数々の中にも、生薬は隠れています。

例えば、“喜ぶ”の語呂から必ず登場する昆布(コブ、コンブ)は、グルタミン酸、アルギン酸、フコイダンなどが含まれるだけでなく、日本人に不足しがちなカルシウムやカリウムなどのミネラルも豊富。またその名の響きから「難を転じて福と成す」とされ、彩りとしても重宝する「ナンテン」は、昔から咳止めの民間療法に用いられ、食品の防腐に役立つとか。

今回は、そんな「おせち」の食材の中からいくつかを取り上げ、養命酒中央研究所の小野洋二研究員が解説いたします。

「おせち」は生薬の未知なる組み合わせの宝庫?

小野 洋二
(養命酒中央研究所)

おせち料理には様々な意味を込めて数多くの食材が使用されています。それらのうち、植物素材について生薬名が知られているものをピックアップしてみました。普段使用している名前がそのまま生薬名というものから、ほとんど耳にしたことがない呼び名までいろいろあります。生薬名は漢字で書いた方が分かりやすいものもありますが、逆にどう読んだらいいのか分からないものも多いので、食材名の後に続けてカッコ書きでカタカナ表記します。参考にした文献等によっては濁点がついたりつかなかったりと微妙なところもありますので、細かいところは気にしないでください。

では、とにかく羅列してみます(順不同)。
黒豆(ズシ)、ちょろぎ(ソウセキサン)、蒟蒻(コンニャク)、牛蒡(ゴボウ)、栗(リッシ)、さつまいも(カンショ)、椎茸(コウシン)、くわい(ジコ)、蓮根(レンコン)、金柑(キンカン)、ほうれん草(ハリョウ)、野菜の人参(ゴラフク)、昆布(コンブ)。

また、普段の家庭料理ではあまり使われることがありませんが、おせち料理では盛り付けるときに載せたり敷いたりする「あしらい」がよくみられます。たとえば料理の色を引き立てるため、冬でも葉の緑が鮮やかなナンテンやウラジロ、千両、万両などが使われます。これらあしらいや縁起物としてお正月に飾られる植物にも生薬名をもつものがありますので、列記してみます(順不同)。
南天(ナンテンジツ)、ゆずり葉(コウジョウボク)、三つ葉(カモコゼリ)、柚子(ユ)、だいだい(トウヒ)、菊(キクカ)、椿(サンチャ)、松(ショウヨウ)、竹・笹(タンチクヨウ)、梅(ウバイ)、おもと(マンネンセイ)。

個々の素材はそれほど珍しいものではありませんが、日常の中でこれだけの種類の食材が一堂に会した料理はなかなか用意することができません。以前このコラムでもお話がありましたが、そもそも生薬は単独で使用するというよりは組み合わせて使うものです。これら相当数の食材を組み合わせたことにより生み出される効果は、一つ一つの素材の持つ機能性についてあれこれ語ったところで到底説明できるものではないのではと思われます。もしかしたら、おせち料理の中にもまだ現代人が解明できていない、ものすごい組み合わせが隠れているかもしれません。

おせち料理の始まりは中国から伝わった五節供(ごせっく)の行事に由来すると言われますが、重箱に詰めた「おせち料理」がお目見えしたのは明治時代以降のことだとか。その後、第二次世界大戦後でデパートなどが見栄えの良い重箱入りの「御節料理」を発売すると、重箱スタイルが全国的にメジャーになったそうです。
そんな「おせち料理」ですが、現代では、“お正月の三が日くらいはいつも忙しい主婦の家事の手間を省こう”という意味もあるそうです。年の初めは、コタツで「おせち料理」を囲んで、ゆっくりと家族で団らん……これもまた、日本のお正月ならではの光景ですね。