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生薬ものしり辞典 2 秋の味覚、「栗ごはん」も薬膳料理?


そろそろ10月も終わり。錦秋の里山のごちそうと言えば、ゆでたり、焼いたり、「栗ごはん」にしたり、はたまたモンブランや渋皮煮などでもいただける秋の味覚のひとつ、「クリ(栗)」です。クリは古来より日本全国の山地や丘陵に自生し、また果樹としても栽培されていますが、そんな日本人になじみ深い木の実であるクリもまた生薬のひとつということを、ご存知でしょうか。

クリは、まだ科学的な研究がなされていなかった時代から、煎じ薬や滋養強壮の妙薬として広く庶民の間で愛されてきました。今回は、そんな滋養に富んだ自然の恵みであるクリの、生薬としての利用法や有効成分などについて、養命酒中央研究所の鈴木研究員が解説いたします。

クリで、冬にそなえた健康維持を
鈴木 和重(養命酒中央研究所 主任研究員)
私たちになじみのあるクリ(栗)はブナ科クリ属の植物で、日本だけでなく朝鮮半島などにも分布しています。日本で栽培されているクリの種類は多く、各地に固有の品種がみられますが、中でもいわゆる「丹波栗」は実が大きく美味で、和菓子などの原料として賞用されています。一方、「天津甘栗」に代表される中国のクリはシナグリという種類で、日本のクリとは植物学的に異なるもので、実の大きさや味、渋皮のはがれ易さなどに違いがあります。


このように、クリはその実が食用として広く用いられますが、中国では古来より生薬のひとつとしても用いられてきました。クリの生薬名は「栗子」(リッシ)と言い、1500年ほど前に著された医学書「名医別録」にも既に記載されています。その中でクリは「主に気を益し、胃腸を厚くし、腎気(精気)を補い、飢えに耐える体力をつける」とあります。また、薬膳食材としては「性味は甘、温。効用は胃や脾の機能を高め、精気を補い、筋力を強める」とされ、様々な病気の治療や健康増進に用いられてきたことが分かります。

成分としては、タンパク質、炭水化物、脂質に加え、ビタミンBやCなどのビタミン類、カリウムやカルシウムなどのミネラルが含まれています。これらはヒトの体にとって必須であるとともに風邪予防に期待される成分も含まれ、滋養のためや冬の到来に備え栄養豊富なクリを食することは、健康維持の観点から理にかなっていると言えるのかもしれません。
中国の書物にはその実(栗子)だけでなく、花(栗花)、葉(栗葉)、イガ(栗毛球)、鬼皮(栗殻)、樹皮(栗樹皮)、根(栗樹根)も生薬として記載されています。葉やイガは乾燥し、その煎汁で皮膚の炎症を抑えたり、ウルシかぶれに応用されたりしますが、その作用は含まれているタンニン類によるものと考えられます。
最後に、当社研究所からほど近い辰野町小野に見られる「シダレグリ」は、枝が垂れ下がった珍しい形をしており、その自生地は国の天然記念物として保護され、豊かな自然を楽しめる場所となっています。

実や花、皮だけでなく、あのトゲトゲした「イガ」さえも生薬になるんですね! それだけクリは栄養のカタマリだということなのでしょう。さすが『さるかに合戦』で活躍するだけのことはあります(?)。この時期にクリがよく食卓に登場するのも、味だけではなく、その満点の栄養があるからこそなのですね。冬の厳しい寒さに備えるためにも、栗ごはんに、焼きぐりに、煮物にと、ぜひ美味しくいただきたいものです。ちなみに、軽くゆでたクリを冷凍保存し、調理する前に少し解凍すると、渋皮もきれいにむけますよ。