養命酒ライフスタイルマガジン

健康の雑学

歯の雑学

歯科医院がなかった時代、江戸庶民に流行ったトンデモ虫歯鎮痛術とは?ローマ人が使っていた仰天うがい薬とは?ブッダの犬歯が祀られた世界遺産とは?今回は歯の雑学をお届け!

江戸庶民に流行ったトンデモ虫歯鎮痛術!

現代のように歯科医院がなかった昔は、歯痛のときにどうしていたのでしょう?江戸時代には既に口腔治療を行う「口中医」がいましたが、一般庶民には縁遠い存在でした。当時の民間医学本『経験千万』には、「大根のおろし汁を耳から注ぐべし」という、かえって具合が悪くなるような治療法が記載されているなど、庶民が手近にあるものでつくれる海千山千の煎じ薬や貼り薬などの民間薬があれこれ考案されたようです。また、神社に歯痛平癒祈願の絵馬を奉納したり、「半紙を4回折って、痛む歯で噛む」といったおまじないもどきも流行るなど、歯痛にのたうつ江戸庶民の苦労は大変なものだったようです。
一方、江戸時代の儒学者・貝原益軒は、「毎日、時々、歯を叩くこと36度すべし、歯かたくなり、虫くはず、歯の病なし」と『養生訓』で述べていますが、こちらはトンデモ説ではなく、12世紀に記された中国の医書『養生方』に出てくる「叩歯(こうし)」の歯のケア方法に由来します。叩歯とは、歯をカチカチ鳴らすことで歯の骨を丈夫にする噛む健康法で、現在も中国気功で行われています。

ローマ人の仰天うがい薬とは?

古代ローマの庶民は、朝からニンニクを塗ったパンを食べていたといわれており、口臭予防のためか口腔ケアには余念がなかったようです。そんな彼らが食後のうがいに使っていたのは、なんと尿だったという仰天説があります。驚くことに、18世紀フランスの近代歯科医学の父といわれるフランスの医学者ピエール・フォシャールも、18世紀に著した『歯科外科医』の中で、尿によるうがいを勧めています。フォシャールは、虫歯は「歯虫」による病であるというそれまでの定説を否定し、食後のぶくぶくうがいで歯についた食べかすを洗い流すことで虫歯や歯肉炎を改善できると説いた人物でもあります。日本でも昭和30年代に尿素を混ぜた練り歯磨きが発売されています。現代でもホワイトニングには過酸化尿素が用いられており、尿素には軽度の殺菌効果が認められています。歯科医学が確立する以前から、尿に含まれる尿素の科学的効果を察知していた古代ローマ人の知恵には驚きですね。

古代ローマ人のうがい

ブッダの犬歯が祀られた世界遺産とは?

仏教国であるスリランカの聖都キャンディには、ブッダの右側の犬歯が祀られている「仏歯寺(ぶっしじ)」という、世界遺産の壮麗な寺院があります。屈強な兵士に守られ、頑丈な鍵のついた扉の奥に安置されているブッダの犬歯は、参拝者の目に触れることはありませんが、絶え間なく訪れる敬虔な仏教徒たちはみな、その犬歯のある部屋に向かって花を献じ、熱心に祈りを捧げています。
しかし、そもそもブッダの犬歯がなぜそこにあるのでしょう?——紀元前に入滅したブッダの骨と歯は、インド各地に分割されましたが、4世紀に隣国スリランカにその犬歯がもたらされ、それが「王権の証」として代々受け継がれてきました。スリランカの王朝は、度重なる侵略によって、方々に遷都を余儀なくされましたが、ブッダの犬歯を死守することが王朝の最大の使命だったのです。ちなみに、ブッダは弟子たちに歯を清めてから読経するように説き、爪楊枝の原型である「歯木」による歯磨きを励行したといわれています。きっと仏歯寺に祀られている犬歯も、きれいに手入れが行き届いているのではないでしょうか。

うがい