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「不思議の国のアリス」も「スーパーマリオ」もハマったあのきのことは?一夜限りの幻想的な「ヒトヨタケ」って“きのこ♡ラブ”な音楽家のきのこ的人生とは? 今月はきのこをめぐる雑学をお届け!

「不思議の国のアリス」も「スーパーマリオ」もハマったあのきのことは?

ラブリーな赤い傘に、白い斑点のアクセント。毒きのこのシンボルともいうべき「ベニテングタケ」のキッチュな佇まいは、世界各国のさまざまなきのこアイテムのモチーフにもなっています。ヨーロッパでは幸せの象徴として愛されており、クリスマスカードにもよく描かれます。毒きのこといっても、人が死に至るケースは稀で、毒抜きをして食べる国や地域もあるようですが、長期に渡って食べ続けるのは危険です。

ベニテングタケ
ベニテングタケ

ベニテングタケには幻覚作用があるため、マヤ・アステカ時代のシャーマンは儀式のためにベニテングタケを利用したのだとか。「天狗茸(テングタケ)立てり魔所の入口に」「化かされな茸も紅を付けて出てきた」「うつくしやあらうつくしや毒きのこ」——小林一茶の名句に登場する妖しい毒きのこもベニテングタケのようです。ルイス・キャロル原作『不思議の国のアリス』には、かじると身体が縮んだり、首が異様に伸びてしまう謎のきのこが登場しますが、これもベニテングタケがモチーフになっているといわれています。任天堂のゲーム『スーパーマリオブラザーズ』のマリオは赤いきのこを食べるとスーパーマリオに変身しますが、これもベニテングタケ説が有力です。

一夜限りの命を慈しむ「ヒトヨタケ」の神秘

「ヒトヨタケ」は、その名の通り生まれてからたった一夜で溶け落ちていく、なんともはかないきのこです。生まれたばかりの楚々と愛らしい傘が、わずか数時間で黒いインクが滴るようにとろとろと溶け落ち、その溶け跡に散った胞子から、新たな生命が生まれる——そんな生と死の不思議なサイクルを繰り返すヒトヨタケを人生最後の作品のモチーフにした芸術家がいます。アール・ヌーヴォーの天才工芸作家エミール・ガレは、白血病で余命いくばくもない最晩年に、ヒトヨタケをかたどったランプを6つも制作しました。そのうち3つは壊れてしまいましたが、残り3つのうち2つは長野県の北澤美術館と東京のサントリー美術館が所蔵しています。ヒトヨタケの成長過程を3段階に描いたガレのランプには、はかなくも愛しい命に対する慈しみが凝縮されているようです。

ヒトヨタケ
ヒトヨタケ

ガレ(ヒトヨタケ)
ガレ(ヒトヨタケ)

ちなみに、ヒトヨタケは腐った古畳などに室内にも生えるようで、漫画家の松本零士は押入れにしまってあった下ばきにヒトヨタケが生えたことから「サルマタケ」と名付けて漫画のネタにし、そのヒトヨタケならぬサルマタケを漫画家のちばてつやにも賞味させたというエピソードを描いています。
ヒトヨタケが液化して溶け落ちる前に食べると実は美味しいようですが、アルコールが入るとひどく悪酔いしてしまうのでご注意を。

“きのこ♡ラブ”な前衛音楽家のきのこ的人生

世界的な前衛作曲家、音楽理論家、詩人、思想家…さまざまな肩書を持つジョン・ケージは、キノコ研究家としても知られ、1962年にニューヨーク菌類学会の創立にも携わりました。彼がきのこをこよなく愛するようになったのは、「辞書を開くと "music" のひとつ前の言葉が、たまたま "mushroom(きのこ)" だったから」という人を食ったような理由を述べていますが、さすが「偶然性の音楽」を生み出したジョン・ケージならではの逸話といえるでしょう。
ケージはきのこから音楽や思想のさまざまなヒントを得ており、フランスの作曲家エリック・サティの音楽も、きのこに例えて論じました。きのこ愛が高じるあまり、散歩中に見つけた毒きのこをうっかり食べてしまい、中毒を起こした経験もあるといいます。1989年に京都賞を受賞した際のNHK特別番組「ジョン・ケージ、きのこ的生活」では、「釈迦はきのこを食べて亡くなりましたが、それは木が自然に枯れるような自然死を意味していると思います」という奥深い言葉を残しています。