養命酒ライフスタイルマガジン

健康の雑学

お鍋の雑学

日本のみならず、世界の食卓を彩る鍋。時代や地域によって作法が異なる点も興味をそそります。相撲部屋のちゃんこ鍋から、遠くポルトガルの鍋の“シメ”、江戸庶民の鍋料理などの雑学です。

ヘルシーなちゃんこ鍋なのに、なぜ力士は太る?

力士の食事といえば、ちゃんこ鍋。大きな体でハフハフと食べる様子をたまにテレビなどで見ると、実においしそうだなぁと感じるものですが、ひとえにちゃんこ鍋といってもダシや具などの作法が厳密に決まっているわけではなく、水炊きや寄せ鍋、キムチ鍋などもすべて“ちゃんこ鍋”と呼びます。それどころか、鍋料理でなくても力士の食べるものならすべて“ちゃんこ”と呼ぶ習慣があるのをご存じでしょうか。つまり力士からすれば、ラーメンやハンバーガーなども“ちゃんこ”になるというわけです。

ただ、伝統的なちゃんこ鍋といえば、鶏ガラでダシをとり、具としてもふんだんに鶏肉を入れたものでした。これを「ソップ炊き」といいます。“ソップ”とは鶏肉を指す俗語ですが、これが転じて“鶏ガラのように痩せた力士”のことを「ソップ型力士」と呼ぶようになりました。少々卑下するような言い回しですが、鶏そのものは力士にとって縁起物。豚や牛は4本足で、土俵では手がついてしまった“負け”状態を意味します。2本足で立つ鶏は、土俵を割らない限り負けていないということですね。ちなみにまるまる太っている力士は「アンコ型力士」。お腹がぷっくりとしている魚の「アンコウ」から転じたとも言われていますが、由来の真相は定かではありません。

“ちゃんこ”という名前は実にかわいらしい響きですが、この由来も諸説あります。通常、ちゃんこ作りは相撲部屋の幕下力士が担当しますが、その料理番を「ちゃん」と呼んでいたためという説もあれば、中国で板金製の鍋を意味する「チャンクオ」が訛ったという説、親方のことを「ちゃん(=父ちゃん)」と呼び、弟子を「こ(子)」と呼んでいたことに端を発するという説まで、実にさまざまです。

さてここで、素朴な疑問。鍋は栄養価も高く、かつヘルシーな料理のはずですが、なぜ力士は総じて太っているのか?ひとつの理由は生活習慣です。早朝から猛稽古をこなし、体がエネルギーを欲している状態でドカッと食べる。そしてすぐ昼寝。1日2食ですが、なにせ量は一般人の5~6人分くらいともいわれるほど。しかも、デザートとしてケーキをたくさん食べてから昼寝するといったことも珍しくないそうです。

ただ、厳しい稽古の賜物で、体脂肪率はそれほど高くないところが力士たるゆえん。2005年、年間6場所完全優勝を果たした頃の朝青龍関は体重140kgほどで体脂肪率は22%だったとか。日本肥満学会によると、この「22」という数値はいわゆる標準値で、統計的にもっとも病気にかかりにくいそうです。

鍋の“シメ”にパンを入れるのはアリ!?

鍋の具をあらかた食べ終わったら、やっぱり“シメ”が欲しくなるもの。今回、50人に「鍋のシメに入れるものは?(重複回答可)」とアンケートをとってみました。

38票を獲得して1位に輝いたのは、やっぱり「ご飯」。いわゆる「おじや」です。卵を落としてネギをパラリと乗せて食べる方が最も多かったのですが、「お米は洗ってぬめりを取ってから入れる」かどうかは意見が分かれました。ぬめりを落とすと、サラリとした「雑炊」仕立てになりますね。

2位は33票を獲得した「うどん」でした。地元が秋田の男性は、ご当地の「稲庭うどん」と銘柄限定で回答。ちなみに「きりたんぽ鍋でも、稲庭うどんでシメる!」とのことでした。3位は「ラーメン」で22票。昨今市販されている「鍋用ラーメン」派の方もいれば、「少し粘り気が出てしまうけど、乾麺を入れる」といった方も。「残り汁が濃い味の時は平麺タイプで、薄味のときはスープが絡みやすいように、ちぢれ麺」とラーメン屋さながらに使い分ける人や、「香港で火鍋を食べたとき、シメに日本のインスタントラーメンが出てきた」という回答もありました。

面白いのは、少数派の意見。「お店でトマト鍋を食べた時、シメはご飯とチーズを入れてリゾットにした」「大晦日の我が家の夕食は、必ず水炊きでした。食べ終わったら醤油とお酒で味を整えて、お蕎麦を入れて年越し蕎麦にしていました」という意見の他、「もつ鍋はちゃんぽん。東京に出てきてちゃんぽんがメニューにないのがちょっとショックだった」という九州出身の方や、「姫路では素麺を入れる家が多いですよ」といったご当地の習慣にちなんだコメントもありました。

“シメ”によっていろいろな楽しみ方がありますが、海外に目を移すと「パンでシメる」地域もあります。たとえばポルトガル。ご飯を入れてリゾットにすることもよくありますが、「アソルダ」というパン雑炊料理があるため、鍋のシメにパンを入れることも珍しくありません。「アソルダ」は、オリーブオイルとニンニクを炒めたところにパンを浸し、コリアンダーや卵などを加えたもの。ちょっと古くなって固くなったパンを、再び美味しく食べるための知恵ですね。十分にスープを吸ったパンは、かなりの満腹感を得られます。

ポルトガルの鍋は魚介類が豊富なものが多く、日本の鍋と比較的似ています。もしかすると、意外と合うかもしれない!?

ところ変われば“鍋の囲み方”も変わる!?

皆で集まって鍋を囲む楽しさは、誰もが認めるところですよね。ただし、古今東西を見渡してみると、鍋の囲み方も実にさまざまです。

「鍋をつつく」という言葉がありますが、実際のところ日本では、菜箸やお玉を使って取り分けるスタイルが主流です。文字通り、鍋をつつく習慣があるのは中国や韓国などのアジア諸国。自分の箸やスッカラ(柄の長いスプーン)を鍋にドボンといれて具を取ります。ヘンに気を回してお箸を逆さにしたり、菜箸などを使って取り分けると、逆に「他人行儀な人だな…」とマイナスなイメージをもたれてしまうこともしばしば。アジアを旅行して現地の人と鍋を囲む機会がもしあるなら、「郷に入りては郷に従え」の精神で臨みましょう。

逆に、菜箸どころか「お鍋」まで一人一個というケースがよくあるのは、アメリカなどの欧米諸国。アメリカのしゃぶしゃぶレストランでは、一人一個というスタイルがよくあります。アジアと欧米、どちらが良い悪いの話ではなく、文化の違いといえるでしょう。ちなみに日本には、“おひとり様”のための鍋料理店も存在します。どういうわけか、大阪や京都など関西圏に多くみられる業態ですが、この場合も当然ながら一人につき鍋一個です。鍋を“囲む”ことはできないけれど、一人で鍋が食べたくなった時には最適ですね。鍋のヘルシーさが注目を集めている昨今ゆえ、女性の一人客も多いのだそうです。

ただ、鍋のルーツを辿ると、「一人鍋」もあながち異質というわけではありません。江戸時代、小さな鍋を使って2、3品を煮た鍋料理「小鍋立て」が庶民の間で流行しました。1人か、多くて3人程度で囲むくらいの規模の鍋です。

もともと、汁ものなどの料理は囲炉裏の上からぶら下がる自在鉤に鍋をひっかけて作られていました。しかし、大勢の人がひしめいて暮らす江戸においては、いわゆる大家族ではない“核家族”も珍しくありませんでした。住居自体も狭いため、田舎の豪農のように囲炉裏自体がない。そこで登場したのが七輪です。七輪自体、そんなに大きなものではないので、小さな鍋がフィットしそうですよね。また、暖を取る火鉢も「小鍋立て」の熱源として利用されていたそうです。