養命酒ライフスタイルマガジン

健康の雑学

夏の薬膳の雑学

暑い季節を乗り切る体を作ってくれる、夏の薬膳。その素材として用いられる食べ物には、こんなエピソードがありました。

関東と関西では別の料理!?夏を乗り切る「まる鍋」の話

夏の暑い盛りですが、「鍋」のお話です。「まる鍋」という料理をご存じでしょうか?「知ってる!」と頷いた方もいらっしゃると思いますが、関東と関西では同じ「まる鍋」でも、まったく異なる料理なんです。

関東、とりわけ東京の下町で「まる鍋」というと、ドジョウ鍋のこと。単に「まる」と呼ばれることもあります。ドジョウを煮込んでゴボウと合わせ、卵でとじれば「柳川鍋」ですが、ドジョウを丸ごと煮込み、その上にネギをどっさりと乗せたものが「まる鍋」です。丸ごとゆえに小骨があたってちょっと苦手…という方もいますが、お酒を飲まれる方の中には「肴として最高!」という声もあるほど。しかも、鍋なのに夏の風物詩というのも珍しいところです。

一方、関西で「まる鍋」といえばスッポン鍋のこと。スープを張った鍋にスッポンを入れてグツグツと煮込み、野菜などをいれる鍋料理です。ゼラチン質の肉は、なんとも滋味深い味。締めはなんといっても雑炊がよく合います。

ドジョウとスッポンは、いずれも精のつく食材として古くから親しまれてきました。東洋医学の世界でも、スッポンは体の余分な熱を冷ますといわれています。まさに、夏にピッタリの食材ですね。漢方薬としても重宝されてきた歴史があります。ドジョウもまた、夏バテ対策には効果的。カルシウムも豊富なので、骨粗しょう症予防にも効果が期待できます。

ちなみに、同じようなものでも全然レベルが違うことを「月とスッポン」と言ったりしますよね。これはとりもなおさず、スッポンの甲羅が丸いことから「まる」と呼ばれていたため、同じ丸いモノでも全然違うという比喩になったんだとか。朱塗りのお盆「朱盆(しゅぼん)」と月の比較だという説もあります。

暑い夏を乗り切るためのアツアツ鍋料理。冷たいモノを摂りがちな夏だからこそ、一度試してみてはいかがですか?

みょうがを食べると物忘れがひどくなるって本当!?

夏の食材として知られている「みょうが」ですが、実は野菜として栽培・食用しているのは、実は日本だけなんです。私たちがよく目にする赤いみょうがは、花をつける前段階の状態を収穫したもの。東洋医学的にも体の余熱を取る「寒」の食材ですから、夏にはぴったり。そうめんや冷奴の薬味として使われるのもうなずけます。また、血の巡りを促すため、生理不順などにも良いといわれています。

名前の由来としては、しょうがと共に日本に持ち込まれた際、香りが強かったしょうがのことを「兄香(せのか)」、みょうがのことを「妹香(めのか)」と呼んでいたことから転じて名前がつけられたという説が有力視されているようです。

ちなみに、「みょうがを食べると物忘れがひどくなる」という俗説を耳にしたこと、ありませんか?かつて、テレビでやっていた「まんが日本昔ばなし」でも、こんな話がありました。あるところに欲張りな宿屋の亭主がいて、旅人にたくさんみょうがを食べさせて、お財布を忘れていくようにしむけました。しこたま食べて、さあ翌日。部屋を覗いてみると旅人がいない…お財布を忘れていくのではなく、宿代を払うのを忘れていってしまった…というオチでした。これを幼い頃に観て、「悪いことをたくらむとしっぺ返しに遭うな」と思ったと同時に「みょうがって怖い!もう食べたくない!」と思いました(笑)。

しかしなぜそのような説が生まれたのでしょうか?一説には、釈迦の弟子であった「周利槃特(しゅりはんどく)」の伝説が元になっているようです。

この僧はモノ忘れがひどく、自分の名前も満足に言えないほどでした。そのため、托鉢もうまくできない。そこで釈迦は、「周利槃特」と書いた名札を当人の背中に貼り、名前を聞かれたらこれを指し示すように、と諭しました。

当の周利槃特も、自分のモノ忘れの酷さに悩んでいました。なぜ自分はこんなに愚かなのか…そう釈迦に嘆いたところ、「自分が愚かだと知っている人は、本当の愚か者ではない」と諭し、一本のほうきを与えて「とにかく一心に塵を払いなさい」と言ったそうです。この言葉を受けて周利槃特は真摯に、いつもほうきを持って掃除をして、やがて人から尊ばれるようになり、徳の高い僧になりました。物事をつらつらと覚えれば悟りが開けるということではない、ということを体現した人といってもいいでしょう。

そんな彼の死後、墓にみなれない草が生えていました。その草は、「名前を荷(かつ)いでいた周利槃特」という意味合いから「茗荷(みょうが)」になったといわれています。

夏が旬なのに、なぜ「冬瓜」

ウリ科の植物、冬瓜(とうがん)。昨今では東京のスーパーでも、たまに売っているのを目にします。

冬瓜の旬は夏。90%以上が水分で、体の余分な熱を冷ましつつ余分な水分も出してくれるという、まさに夏の薬膳にはピッタリの食材です。しかも、体内に水分が足りないときには補ってくれる優れもの。また、冬瓜の種は利尿や緩下(かんげ・便秘改善のこと)に作用する「冬瓜子(とうがし)」と呼ばれる生薬になります。冬瓜の実のしぼり汁も、民間療法として解熱に用いされていたとのこと。ビタミンCも含むため、風邪を引いた時などにもよさそうです。

なにゆえ「冬」という文字が使われているのかといいますと、冬瓜は日持ちがよいため、比較的涼しいところに置いておけば冬まで保存がきくからという説が有力なようです。ただ実際には、夏の盛りに収穫した冬瓜はなかなか保(も)ちません。秋口に穫れたものならなんとか…といったところです。他のウリ科植物に比べると収穫期が遅めなので、このような名前がついたのでしょう。

沖縄県は、本州に比べると比較的冬瓜をよく食べる地域です。沖縄では冬瓜のことを「シブイ」と呼びます。夏場にふつうに食べたりもしますが、日持ちのよさを活かして保存しておき、なにかお祝い事があるときに取り出して食べるといったこともあるようです。味は淡泊なので、煮物や酢の物、スープに入れるなどして食べることが一般的ですね。ちなみに、富山や新潟などの北陸地方では、冬瓜のことを「かもうり」と呼ぶこともあります。

中国では、大きな冬瓜をくりぬいて器として使い、その中に冬瓜の実の部分や貝柱、金華ハムなどの具、さらにスープを入れて蒸す料理もあります。高級料理店ですと、冬瓜の器に美しい彫刻を施すこともあるようです。これも夏の料理としてみなされています。