養命酒ライフスタイルマガジン

健康の雑学

油の雑学

天ぷらやバイオディーゼル燃料、ラード、ガマの油など、油に関するさまざまな雑学をお送りします。

照明から天ぷら、果ては自動車燃料に

あまり油を使わずに調理する和食において、数少ない例外といえば“天ぷら”でしょう。天ぷらが庶民の間に広まったのは江戸時代の頃。江戸といえば火事の多い時代です。家々も密集していましたから、大きく燃え広がる「大火」もしばしば起きています。油が高温になる天ぷらは、なんとも危険ですよね。そのため屋内で調理するのではなく、寿司や蕎麦と同様に屋台で振舞われていました。

さて油ですが、天ぷらには菜の花、つまり菜種油が主に使われていたといいます。それまでは行灯(あんどん)の照明用として主に使われていましたが、食用油としても利用されるようになります。ちなみに天ぷらの具となったのは江戸前の魚介類など。屋台ですから、それこそ焼き鳥のように串に刺して売られていたとのことです。

時代は移り変わって現代。家庭で天ぷらはあまりやらない、という人も少なからずいらっしゃると思います。やはり理由としては、はねた油をふき取ったり、捨てる際に凝固剤を用いる必要があるなど、相応の手間がかかることにありそうです。そうした点を見越してか、スーパーの惣菜コーナーにも多くの天ぷらや揚げ物が並んでいますよね。

そう、スーパーといえばもうひとつ。昨今、家庭で出た天ぷら油などの植物性廃食用油を回収するボックスなどを設置するスーパーが増えています。ここで回収された廃油が何に生まれ変わるかというと、主にバイオディーゼル燃料(BDF)です。

廃食用油を精製して生まれるバイオディーゼル燃料は、バスやトラックなどの自動車の動力となります。各地方自治体や企業では、ガソリンの代わりにバイオディーゼル燃料で走る自動車を活用し、温室効果ガスの削減につなげようという狙いがあります。

照明用から食用、さらに燃料と、時代の移り変わりによって油が活用されるシーンも増えるということですね。

ラードを使った超簡単な台湾の料理とは?

今月の特集で主にご紹介したのは植物性の油ですが、ここで動物性の油についても触れておきましょう。

最もおなじみといえるのは、バターでしょう。れっきとした動物性の油です。それと「ヘット」と呼ばれる牛脂。ステーキや焼肉など、鉄板焼きの際によくブロック状のものが使われていますよね。そして豚脂、すなわち「ラード」です。

ラードがどんなところで使われているかというと、たとえばトンカツ屋。豚肉をカラリと揚げてコクのある風味に仕上げられるとして、ラードを使うお店も少なくありません。さらにラーメン屋では豚の背中の脂肪、いわゆる「背脂(せあぶら)」を、仕上げにスープの上にかけるところもあります。コクと旨味を出すことと、スープの表面に漂わせることによって冷めにくくなるという利点もあるようです。また、沖縄のお菓子として有名な「サーターアンダギー」や「ちんすこう」も、本来はラードを使って揚げています。

日本では、家庭用にラードを購入することは、あまりポピュラーではありませんよね。ただ、海外ではラードを普段の食生活に取り入れているところも多くあります。

イタリアで「ラルド」といえば、ラードのこと。ただし単なるラードに手間が加わっています。ラードに塩やスパイス、ハーブなどをすりこんで、一定期間熟成させると出来上がるのが「ラルド」。“豚の背脂のハム”といえます。

台湾の一般家庭でも、よくラードを料理に使います。というより、豚の脂身を買ってきて、フライパンで熱することによってラード部分を抽出するといった「ラード作り」から始めることも珍しくありません。余ったラードは冷蔵庫で保存しておきます。そして野菜炒めなどに使うと、たとえお肉が入っていなくてもコクと旨味が加わり、美味しく仕上がります。

もっと簡単にラードを使う料理となると「猪油飯(ラードご飯)」。ご飯にラードをかけてお醤油を垂らせば出来上がり。日本でいうところの「たまごかけご飯」や、味噌汁をかける「ねこまんま」のような存在ですね。「食べるラー油」をご飯にかけて食べる感覚に近いかもしれません。

お立会い!「ガマの油」って何の油?

さてさて、ここでお立ち会い。これまで食用油の話題が続きましたが、次は「ガマの油」です。誰しも一度は耳にしたことがありますよね。中には実際に「ガマの油売り」の口上を聴いたことがある、という人もいるのでは?現在も大道芸として、ガマの油のルーツという説もある茨城・筑波山で見ることができます。

「ガマの油」は、切り傷やあかぎれなどに効くといわれてきました。ガマの油売りでも、実際に刀で自分の腕を切るふりをする「実演販売」がよく行なわれています。ちなみに古典落語の「蝦蟇の膏(がまのあぶら)」では、酒に酔ったガマの油売りが、誤って自分の腕を本当に切ってしまい、「誰かお立会いの中で、血止め持ってる人、いない?」というオチが披露されます。

では、ガマの油の成分は、一体何なのか?古くから伝わる売り口上では「鏡に写したガマガエルがタラタラと流す油」といわれてきました。実際、カエルの耳腺分泌物を集めて乾燥させた「せんそ」という生薬がありますが、これは現在の日本薬局方では毒薬とされています。また、カエルではなく植物の「ガマ」の花粉にあたる「蒲黄(ほおう)」ではないかという説や、馬の脂肪(馬油)だったという説もあり、本当のところはわかっていません。

さらに「ガマの油」という名前についてですが、発祥といわれる筑波山の住職、光誉上人(こうよじょうにん)が「大阪冬の陣」と「大阪夏の陣」で徳川勢につき、ガマの油で怪我人を救って活躍。その光誉上人のご面相がガマガエルに似ていた・・・なんて説もあるほどです。

どのような薬であったか、定かではありませんが、「ガマの油売り」の威勢のいい売り方は、今もなお筑波の地で語り継がれています。