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  • 【2019年5月号】 動物たちの食べ方に学ぶ!~国立科学博物館 特別展「大哺乳類展2」レポート~

動物たちの食べ方に学ぶ!~国立科学博物館 特別展「大哺乳類展2」レポート~

現代はストレス社会といわれますが、人と同じ哺乳類の動物たちは、過酷な環境や外敵のストレスと果敢に戦いながら生き残ってきています。そんな哺乳類の生き残りをテーマにした特別展「大哺乳類展2―みんなの生き残り作戦」が、東京・上野の国立科学博物館で2019年6月16日まで開催中です。今月は特別展を監修した川田伸一郎先生にお話を伺い、大迫力のはく製や標本を紹介しながら、特に「食べる」という側面から哺乳類が生き残ってきた秘密に迫ります!

食べること=生き残ること!
哺乳類に学ぶ「生き残りの知恵」

国立科学博物館で開催中の特別展「大哺乳類展2―みんなの生き残り作戦」では、「ロコモーション(移動運動)」「食べる」「産む・育てる」をテーマに、多様な動物たちの生き残りの知恵を学ぶことができます。

哺乳類の大行進

多様性が一目瞭然!約200種の哺乳類が大行進

哺乳類のはく製が分類ごとに集合した展示は圧巻!例えば同じ「食肉目」でも、ジャイアントパンダやトド、イヌなど見た目も生育環境も食性も全く異なり、哺乳類の多様性が一目瞭然です。ホッキョクグマの背後にいる巨大なはく製は、1977年まで江ノ島水族館で飼育されていた当時世界最大のミナミゾウアザラシの大吉です(新江ノ島水族館提供)。

川田 伸一郎(かわだ しんいちろう)先生
お話を伺った先生
「大哺乳類展2」監修
川田 伸一郎(かわだ しんいちろう)先生

国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹。専門は哺乳類学。哺乳類の分類と種分化に関して、特にモグラ類の形態的分析と核型分析を中心とした研究を行っており、“モグラ博士”の異名を持つ。哺乳類の歯式進化に関する研究や、明治から昭和初期にかけての日本の動物学史に関する文献・資料の調査も行っている。

見た目は全然違うけれど、ヒトも哺乳類の仲間

哺乳類は、魚類、両生類、爬虫類の祖先を経て、2億2千万年以上前に陸上に出現した脊椎動物です。地球上には、約5,400種もの哺乳類が生息しているそう。哺乳類は毛が生えていて、子どもを産み、授乳するという特徴や、鼓膜で受け取った音を内耳に伝える中耳骨が3つあるといった特徴があり、ヒトもそうした特徴を備えた哺乳類です。川田先生いわく、ヒトもサルの仲間と同じ霊長目なので、チンパンジーやオランウータンの赤ちゃんは、ヒトの赤ちゃんによく似ているのだとか。

野生動物のストレスは人間の比じゃない!

セイウチ

オスのセイウチは繁殖期に鋭い牙で互いに激しく闘争するので、首の周りに無数の傷が見られます。過去には人間に乱獲され、さらに近年は温暖化などの影響で生息環境が脅かされたことで、絶滅の危機に瀕しています。
多くの野生動物は生まれた時から外敵をはじめとするストレスに常にさらされており、ヒトよりもはるかに過酷な環境の中で生きています。ストレスに弱ければ、生き残ることができず、その種族は衰退していきます。今、地球上にいる多様な哺乳類は、祖先がさまざまなストレスを乗り越えて進化してきたからこそ、生き残ることができたといえます。
ヒトは脳を発達させることによって最も繁栄している哺乳類ですが、国際自然保護連合によると、哺乳類の約23%が人間の活動によって絶滅の危機があるといわれています。人間社会のストレスを嘆く前に、動物たちにこれ以上ストレスを与えないようにしなければなりませんね。

多様な歯や胃腸からわかる
動物たちの生き残りの知恵!

捕食のために陸上最速に進化したチーター

チーター

最高時速100kmで走れるチーターは、逃げ足の速い草食獣を捕食するため、瞬時に速度や方向を変えられる超高度な走行能力を進化させてきました。ただ、ネコ科の中では体に比べて頭が小さく、戦うより高速走行に特化した身体構造なので、ガゼルのような小型動物しか捕えられず、ヒョウなどに獲物を横取りされてしまうこともあります。

骨もかわいい?ジャイアントパンダの骨格を観察!

ジャイアントパンダの骨格標本

ジャイアントパンダは重い体を支えて歩くため、かかとが地面にペタリと付きます。笹が主食で、獲物を追い回す必要がないため、あまり機敏に動けません。

哺乳類は歯が命!

頭骨と歯

会場には小さなネズミやコウモリから巨大なクジラまで、200点近い多様な頭骨と歯がずらり!歯は哺乳類の特徴のひとつです。草、肉、魚など、食べるもので哺乳類の歯やあごの形も異なります。人間は加齢とともに歯周病率が上がりますが、ニホンカモシカなどの草食動物に特に歯周病が見られるよう。川田先生いわく、自然のものだけを食べている野生動物ほうが、動物園で飼育されている動物より歯がきれいなのだとか。歯が生え変わらない種類の哺乳類は、歯を失えばエサから栄養摂取できなくなるので、命取りになります。

シャチとミンククジラの頭骨がパクパク動く!

ヒゲクジラとシャチ

写真右の頭骨はシャチ、左はミンククジラ。会場ではどちらもパクパクと口が動くので迫力満点!海に棲むハクジラ類は、魚やイカ、タコ、エビなどを丸のみするので歯は全て円錐形で、生え変わりません。ハクジラの仲間のシャチの歯も、全て同じ円錐形ですが、鋭く尖っており、エサをこれでガブリと捕えます。一方、小魚や動物プランクトンを大量に取り込んで食べるヒゲクジラの仲間のミンククジラは、歯の代わりにエサをこすためのヒゲ板という特殊器官が口の中にあります。会場では硬いケラチン質のヒゲ板の一部に触れることができるコーナーも。

Column 丸のみするクジラの胃の中からこんなごみが…!

17海洋のごみ

会場の一角では、クジラの胃の中から出てきたプラスチックなどのごみも公開されています。ビニールはエサのクラゲと見間違って飲み込んでいる可能性があるそう。ヒト社会由来のごみをこれ以上増やさない努力が必要ですね。

パンダは笹を噛むのは得意だけど、消化は苦手!?

ジャイアントパンダの歯

両生類や爬虫類は歯の形状がほぼ同じで何度も生え変わりますが、哺乳類は少ない歯でも多様な食べ物を処理できるように、臼歯(奥歯)の形態が複雑化しています。ジャイアントパンダはクマ科で最も著しい歯列の変化を遂げました。臼歯には多数の突起があり、主食である笹や竹の硬い繊維を噛みつぶすのに適した構造になっています。ただ、消化器官は肉食のクマと似ていて草食に不向きなため、祖先のクマの腸内細菌によって笹を消化していることが知られているそうです。

大アリクイは長い舌でシロアリをペロペロ

大アリクイのあご

頭蓋骨が非常に細長い大アリクイ。頭骨の半分はあごですが、ワニのようにぱっくり開くわけではなく、口が数cmしか開きません。しかも歯がなく、口から長い舌を出し入れしてシロアリをなめとります。シロアリしか食べない偏食ですが、シロアリはタンパク質が豊富で栄養満点だそう。

モグラのトンネルは捕食のためのトラップ

モグラなどの頭骨

モグラやトガリネズミなど、食虫類の小動物の頭骨は、昆虫をかみ砕くために臼歯の形態が多様化を遂げました。モグラの採食方法は、地中に住居も兼ねた落とし穴のトンネルを掘り、そこに落ちてきたミミズや昆虫を拾って食べるスタイル。モグラは前足でせっせとトンネルを掘り続けているイメージがありますが、実は掘るスピードが非常に遅く、しかも掘り続けるとエネルギーが消耗するので、既存のトンネルを徘徊してエサの虫がいないかチェックしているそう。

まるで吸血鬼!血だけで生きるチスイコウモリ

チスイコウモリ

世界に1,100種以上いるというコウモリ類は、昆虫から花粉、果汁、魚類や鳥類まで、食性が多様なため歯の形態も様々です。異色なのは、血だけを栄養源とするチスイコウモリ。ナイフのような切歯と犬歯で、眠っている哺乳類の皮膚を切り裂き、血液をなめとります。…というとちょっと怖いけれど、お腹にためこんだ血を仲間に分け与えたり、血をくれた相手に血のお返しをする仲間思いの一面があるそう。とても小さいので、会場の虫眼鏡でじっくり観察を!川田先生もイチオシの珍しい標本です。

生き残るために胃腸を進化させた哺乳類

キリンやイルカの仲間は胃が複数ある!

キリン、グレビーシマウマ、アカボウクジラ、スナメリの胃腸

キリン(写真右上)は、胃が4つの部屋に分かれた「複胃」を持ち、第1胃に共生する微生物の助けを借りて食物繊維を消化し、何度も反芻しながら栄養を吸収しています。
アカボウクジラとイルカの仲間のスナメリ(写真右下)は、魚類などを丸呑みするため、複胃と長い腸で消化吸収の機能を高めています。ただ、反芻はしません。
グレビーシマウマ(写真左)はヒトと同じ「単胃」です。植物の消化を腸に託しているため、胃の前半部は食道のような役割で、後半部で消化酵素により化学的消化を行います。

カピバラは盲腸が大きい!

カピバラの胃腸

ヒトの盲腸は数ミリしかなく、進化の過程で機能が失われたといわれていますが、ウマやカピバラは盲腸を中心に腸が長く大きく発達。そこに共生する腸内細菌によって、植物を発酵させて消化・吸収しています。

内臓は栄養満点で美味しい!

肉食動物は草食動物の内臓を食べることで、ビタミンなど植物の栄養を補っています。肉を食べる時には、サラダも一緒に食べる…というわけですね。ヒトは料理の過程で内臓を捨ててしまうことがよくありますが、内臓はコレステロールが低く栄養満点な部位です。野生動物は身体に必要な栄養源が本能的にわかるのでしょう。

Column 親の糞や吐いたものからも栄養をゲット!?

今回の展示にはありませんが、川田先生いわく、動物の吐いたものや糞にも栄養があるのだとか。例えばウサギは、自分の糞を食べて栄養を再吸収するそう。コアラはお母さんの糞を食べて腸内細菌をもらったり解毒に役立てたりするといいます。また、ライオンなどネコ科の動物は、胃の中のものを子どもの口にオエッと吐いたりしますが、これも栄養補給の一種だそう。

胃腸を進化させた哺乳類は栄養摂取力がアップ!

奇蹄類や鯨偶蹄類

ウマやサイやバクなどの「奇蹄類」は、歯を多様に進化させ、恐竜が絶滅した後に大繁栄していました。しかし、さらに胃腸を進化させて栄養摂取能力を高めたウシやキリンなどの「鯨偶蹄類」が出現したことで、奇蹄類が激減。現在では鯨偶蹄類が324種もいるのに対して、奇蹄類は17種類しか生き残っていません。競争に負けて絶滅した奇蹄類には、「インドリコテリウム」という、アフリカゾウよりも大きく、キリンのように首が長い巨大動物もいたそう。川田先生は、今後、絶滅していく哺乳類も少なくなく、ヒトも例外ではないといいます。

世界一の“出っ歯”はモテ男の生き残り条件!?

イッカク

食べることと同時に、繁殖も生き残りに欠かせない条件です。クジラの仲間のイッカク(写真上)は、2m近くも突出した牙が特徴的ですが、実はこれは前歯が発達したもの。長すぎて不便かと思いきや、牙はオスにしかなく、立派な牙はメスに求愛する際に役立つという説があります。イッカクの牙はカルシウムが豊富で、古くは生薬にも用いられてきました。会場ではらせん状の溝がついたイッカクの牙に触れられるコーナーもあります。

特別展の会場の一角では、哺乳類をモチーフにしたぬいぐるみやお菓子などのユニークなアイテムも販売しているので要チェック!

16ぬいぐるみ

我々人類の胃腸にはこちら!

おなかが空いたら、国立科学博物館内のレストラン「ムーセイオン」へ。火山や恐竜の足跡、テントウムシなどをモチーフにしたユニークなメニューもあります。

ムーセイオン
10:00~17:00(金・土~20:00)、
L.O. 閉店30分前
月曜休館(※月曜日が祝日・休日の場合は火曜日)

★恐竜の足跡ハンバーグの画像

哺乳類大行進

特別展「大哺乳類展2―みんなの生き残り作戦」

開催場所
国立科学博物館 東京都台東区上野公園 7-20
開催日時
2019年6月16日まで 9:00~17:00 金・土 9:00~20:00
4月28日~5月5日 9:00~20:00
5月6日 9:00~18:00
※入館は閉館の30分前まで
月曜休館(※ただし、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、6月10日(月)は開館)

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