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健康は信州にあり!長寿県「長野」のヒミツ

長寿の人が多い県といわれたら、まっさきにどこをイメージしますか?「沖縄」と答える方も多いと思いますが、近年になって目覚ましい長寿県ぶりを発揮しているのは、何を隠そう長野県です。

平均寿命は男性が堂々の1位、女性は5位(平成17年)。一人当たりの老人医療費は、全国3位の低さを誇ります。一体なぜ、長野県はここまでの長寿県となりえたのでしょうか。

空気と水が清らかだからでしょうか? 自然が豊かな山に囲まれているからでしょうか? はたまた養命酒発祥の地だからでしょうか? それとも県内各地に湧く温泉? 独特の風土がはぐくんだ郷土料理?──長寿の理由がどこに隠されているのか、謎は尽きません。今月の『元気通信』では実際に長野の地におもむき、この長寿県のヒミツを追ってみることにしました(北信濃の温泉郷で出会った御年89歳のおばあちゃんインタビューもお見逃しなく!)。それでは長寿県・長野へ、いざ!

意外や意外、長寿県第一位は長野県!

さて、まずはデータを紐解いてみましょう。長野が長寿県であることは、実にさまざまなデータから垣間見ることができます。ひとつめのデータは、都道府県別の平均寿命ベスト5と、その推移です。

男性は、昭和40年の段階ではベスト5入りを果たしておらず、全国9位でした。それが昭和50年から順位を伸ばし、平成7年から連続で全国1位を維持しています。一方、女性は昭和40年が26位でしたが、同じく徐々に順位を上げ、平成7年に晴れてベスト5入り。いったん下がりはしたものの、平成17年も5位を維持しています。男女平均でも、現在堂々の1位です。

ちなみに今年7月、都道府県別データはないものの、平成23年の日本人の平均寿命が発表されました。それによると、男性が79.44年、女性が85.90年。震災による影響で前年より減少したものの、男女ともに世界一を維持しています。もちろん、長野は男女ともに上回っていて、長寿の国・ニッポンを牽引しています。

次に、高齢者が健康であることを示すデータとして注目したいのが、65~74歳の「有業率」。つまり、仕事に就いている人の割合です。健康だから働けるのか、働くから健康になるのか、どちらが先に立っているかはわかりませんが、ここでも長野県がトップ。定年退職のない農業に従事している方が多いことも、トップになった一因といえそうです。

また、1人当たりの老人医療費では、新潟県、岩手県に次いで全国3位の低さを誇ります。全国平均882,118円と比べると、長野県はおよそ16万円ほど低い、721,989円となっています。

年齢を重ねても医療費がそれほどかからず、日々元気に働いている…データをみる限り、なんとも理想的な状況が浮き彫りになりました。

コラム)早わかり!長野ってこんな県

そば、オリンピック、アルプス、松本城……。イメージはいろいろと思い浮かびますが、さて、長野はどんな県でしょう? ここでいったん、社会科の時間です。長野県についておさらいをしておきましょう。

地理

日本列島の中央に位置し、面積は北海道、岩手、福島に次いで全国4位の広さ(13,562km²)。日本アルプスをはじめ、四方を2000~3000m級の山々に囲まれています。

気候

一般的に、夏と冬、昼と夜の気温差が激しい内陸的の気候です。冬場に雪に恵まれる地域も多く、スキー場の数も全国トップレベルです。

人口

平成24年1月1日現在、214万1,208人。10年連続で減少傾向にあります。

自然

高原、山岳地帯、森林、盆地など、地域によってさまざま。県鳥は「雷鳥」、県花は「りんどう」、県獣は「かもしか」、県木は「しらかば」です。

名産品

野沢菜、そば、味噌をはじめ、りんご、巨峰、ブルーベリーなどの果実栽培も盛ん。野菜王国でもあり、レタス、はくさい、アスパラガス、えのきたけは全国1位の生産量です。

有名人

歴史上の人物では、真田昌幸、真田信繁(幸村)ら真田一族や、俳人・小林一茶、幕末の兵学者・佐久間象山が信濃国出身。近年では、作曲家の久石譲さん、タレントの峰竜太さん、ニュース解説でおなじみの池上彰さんが長野生まれです。

長野県MAP
記事に登場するスポットを地図中に示してあります。


より大きな地図で 長野の名所を表示

渋温泉 渋大湯

長野県下高井郡山ノ内町平隠渋大湯
0269-33-2921(渋温泉旅館組合)

渋温泉 目洗いの湯

長野県下高井郡山ノ内町平隠目洗いの湯
0269-33-2921(渋温泉旅館組合)

渋温泉 笹の湯

長野県下高井郡山ノ内町平隠笹の湯
0269-33-2921(渋温泉旅館組合)

渋温泉 初湯

長野県下高井郡山ノ内町平隠初湯
0269-33-2921(渋温泉旅館組合)

渋温泉 喫茶信濃路

長野県下高井郡山ノ内町平隠2148-2
0269-33-2746

田ノ原湿原(志賀高原)

長野県下高井郡山ノ内町平穏7148
0269-34-2404(志賀高原観光協会)

八千穂高原 白駒池

長野県南佐久郡佐久穂町
0267-88-3956(佐久穂町観光協会)

大峰高原 七色大カエデ

長野県北安曇郡池田町大字池田字大峰
0261-62-9197(池田町観光協会)

戸隠高原 鏡池

長野県長野市戸隠
0262-54-2888(戸隠観光協会)

【ヒミツその1】
全国2位の温泉王国!

長野の長寿のヒミツを調べるにあたってまず注目したのが、温泉です。“湯治”ということばがあるように、温泉は健康に良くて、寿命も延びそうですよね。長野県の温泉地の数は、北海道に次いで全国2位。れっきとした温泉王国です。なかでも、温泉郷に住む人びとの多くは、毎日のお風呂が温泉という、なんともうらやましい暮らしぶり。温泉の恵みを肌で感じ、現地のお年寄りに長寿の秘訣を伺うために、長野県北部の温泉郷、渋(しぶ)温泉にやってきました。

川と山に挟まれ、細長く、こぢんまりとした渋温泉は、端から端まで歩いても20分弱。石畳が続く道、古い木造旅館が軒を連ねる街並みは、レトロな風情が漂っています。そんな街の中に、効能の異なる9つの外湯(共同浴場)があり、宿泊客に限ってこれら外湯に入ることができるんです。日々利用している地元の方々と一緒に“裸の付き合い”ができるというわけですね。

さっそく宿に入り、女将さんに「外湯、行ってきます!」と告げると「9番湯の“渋大湯(しぶおおゆ)”は絶対オススメですよ~」とのこと。さっそく赴いてみると、温泉独特の鉄のようなにおいが立ち込めています。浴槽は木張りの床に埋め込まれていて、にごり湯がタップリ!かなり熱めの温度ですが、湯ざわりは柔らかく、心の底からゆったりとできるような感覚に包まれます。湯の効能は、子宝、リュウマチ、神経痛。長く浸かっていたいのは山々でしたが、早々に切り上げて「目洗いの湯(眼病)」、「笹の湯(湿疹)」へ。

…3か所回ると、さすがに湯あたりしてきました!ちょっと休憩するために喫茶店「信濃路」に入ったところ、「いらっしゃいませ~」と元気な声。御年89歳の、一山春子(いちやま・はるこ)さんが出迎えてくれました。渋生まれの渋育ち、この地で喫茶店をオープンして50年!若かりし頃はスキーの選手だったそうです。

「父親がハイカラな人でね、当時は用具もなかったけど自作してくれて、妹と一緒にスキー三昧の日々でしたよ。いま考えれば贅沢ね。子どもの頃は毎日のように滑って、家に帰ってくると母が『お湯、行っといで!』と一言。それで大湯に行くと、スキー靴で締め付けられてた足が軽くなって疲れがとれるんです。お腹の調子が悪いときは『初湯、行っといで!』。ここの人は、みんなそうして過ごしてきてますよ。長寿の秘訣は、やっぱり温泉でしょうね。朝と夜、1日2回入ってますよ」(春子さん)

【ヒミツその2】
豊かな自然が体感できる!

引き続き、春子さんのお話をうかがいましょう。
「75歳までスキーしてたわよ。雪のコンディションがいい日だとね、お店に『準備中』の札をかけてヒョイとスキー行っちゃうの(笑)。お客さんに“いいかげん、そろそろやめたら”と言われて行かなくなったけど、まだ緩い斜面なら滑れると思うわね。体が覚えているもの」(春子さん)

なんとも元気な春子さんですが、この“ヒョイ”と雪山に行ける感覚もまた、長野ならでは。ここ渋温泉に限らず、県内であればどこにいようと車で30分も行けば自然のまっただ中に身を置ける環境も、人びとの健康とは無関係でないかもしれません。

さらに、喫茶店に居合わせた男性(64歳)によると「冬もいいけど、これからの季節は紅葉だね。ここからだと志賀高原が近いよ」とのこと。毎年多くの観光客が紅葉シーズンになると訪れていますが、地元の方も足を運び、ウォーキングやモミジ狩りを楽しむことも多いのだとか。

志賀高原の場合は、深い森に草がなびく草原、火山でできた沼や池、湿原など、いろいろな風景をいっぺんに楽しめるところが魅力です。遊歩道もきちんと整備されているため、ウォーキングにも最適。これからの季節、至るところで木々が色づきますが、上の写真のように草が色づく「草紅葉」も、この地ならではの風景。10月上旬から中旬にかけて、田ノ原湿原で眺めることができます。しかも、運が良ければニホンカモシカや、標高の高い地に生息する高山トンボに出会えることもあるんだとか!

もちろん志賀高原以外にも、長野には紅葉の名所がたくさんありますよ。以下、おすすめスポットを挙げてみましたので、休日はモミジ狩りに出かけてみましょう!

八千穂高原 白駒池(長野県南佐久郡)

紅葉見頃:例年9月下旬~10月上旬

映画『もののけ姫』の世界のような苔むした原生林を歩くと、ふと開ける視界。標高2,100m以上の湖としては日本一の大きさを誇る白駒池が、錦秋の世界に包まれます。

大峰高原 七色大カエデ(長野県北安曇郡)

紅葉見頃:例年10月中旬~11月上旬

信州安曇野の地に広がる、白樺林が美しい大峰高原。そこにたたずむ樹齢250年のカエデの木は、例年10月中旬から色づきはじめ、日を追うごとに7色に変化します。

戸隠高原 鏡池(長野県長野市)

紅葉見頃:例年10月上旬~10月下旬

読んで字のごとく、鏡のような水面が周囲の景色を映す鏡池。鮮やかな紅葉をはじめ、霊峰として名高い戸隠連峰や飯綱山の山影が映り込む姿は、まるで絵画のよう。

【ヒミツその3】
素朴で理に叶った郷土料理!

健康を支える長野の食文化にも、長寿のヒミツが隠されていそう…そこで渋温泉在住のご年配の方々に、「よく食べるモノ」について伺ったところ、お肉や魚と答えた方は意外に少なく、「野菜」「果物」「蕎麦」といった回答が目立ちました。

先の春子さんにも伺ってみたところ、開口一番「そんなにいいもの、昔から食べちゃいないよ~。野菜ばっかりよ」とのこと。言葉を変えれば「粗食」といえるかもしれません。平地が少なく、夏も涼しげで、痩せた土地の多い長野県。特に標高が高い地域では米作がままならず、厳しい環境にも耐えられるヒエやアワなどの雑穀がさかんに栽培されてきました。いまでこそ雑穀はちょっとしたブームとなっていますが、長野には昔から雑穀を食べる文化があったわけですね。

厳しい土地で育つのは、信州名物の蕎麦も同じ。海がなく、魚からタンパク質を摂りづらい長野では、白米よりもタンパク質やビタミンB1、食物繊維が豊富な蕎麦は、ありがたい健康食。いわゆる麺状の蕎麦だけでなく、すいとんや長野の郷土料理「おやき」の皮としても蕎麦粉を使い、日ごろから食べてきました。ちなみに「おやき」は信州土産としても有名ですが、地元のご年配の方々にとっては、いまだに「ごちそう」の意味合いが強いのだとか。春は山菜、秋はきのこ、冬は野沢菜などを具に入れて、旬のものを美味しくいただいているそうです。

翌朝、帰京する前にもう一度、春子さんにご挨拶に伺いました。「働けるかぎり働くよ。ここの年寄りはみんなそう。お店に立ったり、宿で皿洗いしたり、ありがたいことにけっこう仕事があるのよ。私もね、元気に働けて、いまがいちばん幸せかもしれない」と春子さん。笑顔で気さくに話してくれた渋温泉の皆さん、どうもありがとうございました!

コラム)長野県には、ズバリ「健康長寿課」がある!!

長野は、教育熱心な「教育県」としての顔もまた有名です。健康や長寿に関する教育も、戦後まもない頃から県が率先して行ってきました。現在、その旗振り役を担っているのが、その名もズバリの「健康長寿課」です。

同課の活動のうち、現在注目を集めているのが減塩運動です。かつて脳卒中の死亡率が全国トップクラスだった長野において、「30年ほど前から県民の健康と食生活を調査し、塩分摂取を控えるよう、啓蒙活動を行ってきました。かつては一日の摂取量が15gに届く数値が出たこともありましたが、現在では厚生労働省が掲げる指標(男性10g未満、女性8g未満)に近い数値まで減少しています(健康長寿課)」とのこと。脳卒中の発症率も低下しました。

よくよく考えてみると、野沢菜や信州味噌など、長野の名産品の中には塩分が豊富なモノもありますが「減塩運動を始めたころ、味噌メーカーの連合会などに足を運んで、低塩製品の開発をお願いしたこともあります(健康長寿課)」。一方、県民に対しては「味噌汁は1日1杯に」「そばやラーメンの汁は半分残す」「漬物は1日につき小皿1杯」と具体的な例で働きかけつつ、酢の物など減塩料理のレシピを紹介したりと、いまもなお減塩運動を進めています。

医師の目でみる“長野県の長寿の理由”とは?

温泉に豊かな自然、素朴な食文化…これまで長野県の長寿のヒミツを追ってきましたが、医師の視点からみると、その理由はどのように映るのでしょう?東京・三軒茶屋の「たけおクリニック」の竹尾浩紀院長に伺ってみました。

「長野県はもともと病院が少なく、医師の数も多くありません。かつては患者の搬送にも手間取っていたはずです。だからこそ、病気を“予防”する意識が高まり、県としても、食生活の改善や運動を促すといった社会保健活動に力を入れていったのだと思いますね。たとえば、冬場の入浴で急激な温度変化が心筋梗塞などを引き起こす“ヒートショック”対策の早さ。ヒートショックが一般に広く知れ渡る前から「浴室内をシャワー等で温めてから入るように」と県民に呼びかけていました。

他県に先駆けて、健康に関する啓もう活動を続けてきた長野県。そうした行政の努力と、伝統的な暮らしぶりが功を奏したといえそうです。

「あくまでも憶測ですが、食事の欧米化の波が、長野の場合は比較的ゆるやかだったのかもしれません。長寿県として名を馳せてきた沖縄は、2000年の調査で男性の平均寿命が26位まで落ち、“26ショック”と呼ばれました。外食として脂質の高い食事を摂ることで肥満化し、生活習慣病を誘発したといわれています。ただ、長野でも若年層には肥満も増えているようですから、全世代に向けた継続的な取り組みを続けていく必要があるでしょうね」(竹尾氏)

長野県の風土や食事も、健康・長寿に関与しているのでしょうか?野菜もじゅうぶんに摂っているようですが…。

「確かに野菜の摂取量が多いと、脂質や糖質の上昇を抑えられます。塩分を体内に放出するカリウムもじゅうぶん補給できますし、健康によいことは間違いないでしょう。自然環境や温泉なども、もしかすると一因になっているかもしれません。ただいえるのは、なにかひとつの要素が長寿を支えているわけではない、ということです。たとえば減塩運動にしても、全国的にみればまだ高めですよね。減塩が長寿を決定づけるとするなら、もっと塩分摂取量が低い県が長寿県になってもおかしくないわけです。今後の研究に期待したいですね」(竹尾氏)

少々駆け足ではありましたが、長野特集、いかがでしたか。もちろん、この特集だけでは長野が長寿県であるヒミツを完全に解き明かしきることはできません。ですが、皆さまの今後の健康生活に、なんらかの形で参考になれば幸いに思います。「もっとヒミツを知りたい!」という方は、ぜひ、現地へ実際に足を運んでみてください。澄んだ空気の山を歩き、ゆっくり温泉につかり、新そばに舌鼓を打つことで分かってくることもあるかもしれませんよ。紅葉の時季もそろそろ。この秋は、長野にいらしてみませんか。