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生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 63
冬を明るく彩る風流な「ツワブキ」

鎮咳やしもやけに用いられた生薬

12月の声を聞く頃になると、木々の紅葉も終わり、花を咲かせる植物もほとんどなくなってきます。この時期に、ツワブキの黄色い花が咲き出すと、その周りが明るくなったように感じられます。去り行く秋への思いと、やがて来る荒涼とした冬の季節に暖かさを添えてくれる植物です。昭和33年にNHKと植物友の会が共催して「新花ごよみ」を募集した際、12月の花に四季の最後を彩る花としてツワブキが選定されました。日本人好みの植物で、風流な葉は和風の庭の根締めや下草によく似合っています。

ツワブキは、太平洋側では福島県以南、日本海側では石川県以西の日当たりのよい岩場に自生しているキク科常緑の多年草です。根茎は太く、長い柄のある根葉を束生し、葉身は円状腎臓形で厚く、上面は深緑色で光沢があります。10月頃から花茎を50㎝ほど伸ばし、黄色の頭花を散房状に着けます。花茎は約5cm、総苞は淡緑色です。

日本最古の園芸書である『花壇綱目』(1681年)の秋草の部や、『草木錦葉集』(1826年)など、多くの書物に紹介されているように、ツワブキの栽培の歴史も古いようです。今日では切り花の需要が増大し、野生種があることすら忘れられようとしています。

ツワブキの改良種には、葉に黄色の斑点のある「金紋ツワブキ」や、葉の縁が奇妙に縮れて切込みの深い「牡丹ツワブキ」などがあります。花には八重咲きや花弁が管状に変化したものなどもあり、400種もの新種があるという説もあります。

花期が長く、花が黄色く、光沢のある濃緑色の葉などが目立つため、古くから詩歌に詠まれてきました。

 寂しさの 眼の行方や 石蕗の花  与謝蕪村
 静かなる 月日の庭や 石蕗の花  高浜虚子

ツワブキ

牧野富太郎博士は植物名について「光沢ブキ」の転化ではないかとし、漢名は「橐吾(たくご)」であると記述しています。古くは「橐吾」を「タカラコ」と呼んでいたともいわれています。別名に「石蕗」「山蕗」などがあります。「ツワ(ツハ)」の語源について、『大言海』には「艶葉蕗ノ義ニテ葉に光沢アルヲ以て云フ」と記されています。前述の『花壇綱目』では「ツハ」と書かれ、『大和本草』(1708年)では漢名の「橐吾」を「ツハ」と読ませ、『和漢三才図会』(1713年)では「豆和」に「ツハ」が当てられています。ほかにも、「ツヤバフキ」からツワブキに転じたとする説や、「厚葉蕗」から転じたとする説など諸説あります。

学名はLigularia tussilaginea、属名は小さな舌状の花弁を意味するligula(舌)です。種小名はウサギの耳という意味で、花と葉の形から名付けられました。

花言葉は、「愛よ甦れ」「困難に負けない」「先見の明」「謙譲」「謙遜」です。

薬用としては、昔から民間療法によく利用されてきました。葉には強い抗菌成分が含まれており、吸い出しの妙薬として知られているほか、腫れもの、やけど、打ち身に用いられてきました。根茎は健胃、食あたり、下痢に利用されてきました。

食用には若葉の葉柄を食用にする地方もありますが、普通のフキより癖がなく、ソフトな舌触りで風味が優れています。春先の若芽はやや苦みがありますが、灰汁に浸した後、皮をむいておひたしにします。煮付けや酢味噌和え、塩漬け、味噌漬け、粕漬けなどの保存食としても使われています。九州名物の佃煮の伽羅蕗(きゃらぶき)もツワブキを用いています。江戸時代には乾燥して保存食にしていたようです。

出典:牧幸男『植物楽趣』