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生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 57
女性の立ち姿に例えられる優美な「シャクヤク」

「飲薬」の異名を持つ生薬

「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花」と女性の姿に例えられるように、シャクヤクはまっすぐに伸びた茎の頂きに、大型の見事な花を咲かせます。ボタン科の多年生草本で、原産地はアジア大陸の東北部です。漢方薬の原料として中国から朝鮮を経由して日本に渡来したようで、10世紀に書かれた『延喜式』にもその記録を見ることができます。

中国におけるシャクヤクの栽培の歴史はボタンより古く、観賞は隋の時代(6〜7世紀)から始まりました。宋の時代(10〜13世紀)には3万種に及ぶ種類が生まれ、「洛陽のボタン、揚州のシャクヤク」は、天下の名所として知られるようになりました。

日本でも、庭園用の花として多くの園芸種が生まれており、江戸時代には『芍薬自賛花集』などの書物も出版されています。貝原益軒の『大和本草』にも、奥州河沼郡千笑原に千本のシャクヤクが植えられており、満開時の見事さが記述されています。

花の色は、白、紅色、絞りとさまざまで、咲き方も一重、八重、重ねの厚い千重、万重と呼ばれる種類もあります。近年は、従来の「和シャクヤク」より花の日持ちがよく、色も黄色や赤紫で、花弁も細かく裂けた華やかな「洋シャクヤク」が主流となっています。

シャクヤクの茎は1つの株から直立して数本伸び、高さ50〜80cmほどに成長します。初夏になると、茎頂に堂々とした大輪の花を咲かせますが、花言葉は「恥じらい」や「はにかみ」です。

ボタンは「百花王」とも呼ばれますが、シャクヤクには「宰相(相花)」という異名があり、植物的にもボタンとシャクヤクは常に対照されてきました。幸田露伴は「牡丹徳あり、芍薬は才あり」と述べています。シャクヤクは多くの詩歌にも詠まれています。

「芍薬は 紙魚打払う 窓の前へ」与謝蕪村

「芍薬の 赤き芽立ちよ いつのほど かくは伸びしと おもほゆるなり」土田耕平

シャクヤク

シャクヤクの名は、漢名の「芍薬」の音読みです。学名は「Paeonia albiflora」で、「Paeon」とはギリシア神話に登場する医師の名、「albiflora」は白い花のことです。別名には「白犬」「花相」「将離」などがあり、いずれも花の美しさにちなんでいます。

シャクヤクの根は薬用に使われたことから「飲薬」という別名もあります。生薬名は「芍薬」で、3世紀に書かれた『神農本草経』にも腹痛や冷え症、婦人病などに用いるという内容が記されています。ただし、野生の山シャクヤクは薬用には使いません。

出典:牧幸男『植物楽趣』