養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 18
スタミナ料理に欠かせない「ニラ」

ニラレバ炒めや餃子、チヂミの具など、アジア圏のスタミナ食材として知られるニラ。その独特の匂いから、禅宗などではネギやニンニクと共に「五葷(ごくん)」の一つとして避けられますが、匂いの元になっている「アリシン」はネギやニンニクにも含まれる成分で、これがスタミナ源の一つになっているようです。食材として使われるニラには、一般的な緑色の「葉ニラ」のほかに、ニラの芽が出る前に光を遮断して軟白化させた匂いのない「黄ニラ」や、花茎とつぼみだけの「花ニラ」などがあります。

ちなみに、ニラの季語は春になりますが、ニラの開花期は8月から10月頃なので、“ニラの花”の季語は夏になります。その白く可憐な花には、「多幸」「星への願い」という、スタミナ系とは無縁のロマンチックな花言葉が付けられています。
今回は、ニラのさまざまな薬効について、養命酒中央研究所の小野洋二研究員がご紹介いたします。

栄養たっぷり、種子も生薬に

養命酒中央研究所
小野洋二研究員

生薬としてのニラは、種を「韮子(キュウシ)」や「韮菜子(キュウサイシ)」と呼んで利用する場合が多いようです。茎葉には「韮白(キュウハク)」や「韮菜(キュウサイ)」、根鱗茎には「韮根(キュウコン)」という生薬名がありますが、生薬としての利用はあまりみられません。
韮子は黒色微細の粒子で辛味と特有の臭気をもち、強壮、強精、利尿のほか下痢止めなどの目的で単品またはクコシ、ゴミシなどと一緒に使われます。


韮子(韮菜子)


韮白(韮菜)

この韮子に対し「偽品」とされるのが「葱子(ソウシ)」または「葱実(ソウジツ)」と呼ばれるネギの種です。表面のシワの有無で見分けるらしく、韮子にはシワが多くみられるが葱子には無い、とのことです。早速比較してみようと思ったのですが、いずれも生薬としてはポピュラーでないためあまり市販品を見かけません。
韮子は手元にありましたが、葱子はなかったので、野菜として栽培するための種を購入して比べてみました。マイクロスコープの拡大画像では、確かに韮子とニラの種にはシワが多く、ネギの種にはニラのような細かいシワはみられませんでした。ただ、この違いを肉眼で確認するのはかなり難しく、ある程度の経験が必要な気はします。
なお、野菜の種として販売されているものは栽培目的以外には使用してはいけません。


韮子(生薬)


ニラの種(栽培用)


ネギの種(栽培用)

種に対し、野菜として一般的なのは葉です。乾燥させたものが生薬としての韮白で、喘息、去痰、鼻血などに用います。また生汁は打撲傷などに外用することもあります。民間では生汁を服用して日射病に、外用して切り傷やウルシかぶれ、歯痛に良いとされています。
野菜として食用に供する場合でも下痢止めや強壮を期待されることがあります。薬用植物に関する書籍にも「にらぞうすい」(ニラ入り味噌汁で作った粥)が昔から下痢に効くといわれ「賞用される」と記されています。
栄養面ではビタミンA、Eなどが豊富で、とくに葉先に多く分布しているようです。一方、特有の香気はむしろ根元に近い方が多いとのことですので、部位ごとに使い方や調理方法を変えてみるとよりニラの良さが堪能できるかも知れません。

ニラは、古くは「みら」と呼ばれていたようで、『万葉集』には「久々美良(くくみら)」、『正倉院文書』には「彌良(みら)」と記されています。現在も地方によって呼び名がかなり異なり、新潟県中越では「じゃま」、千葉県上総では、「ふたもじ」、奈良県の一部では「とち」といった別称が各地にあるようです。日本国内のニラの生産は温暖な高知県香南市がトップ。餃子で有名な栃木県宇都宮市周辺と共にニラの一大産地として知られています。