養命酒ライフスタイルマガジン

生薬百選

生薬百選97
刺五加(シゴカ)

山間に位置する養命酒中央研究所の周りでは、4月に入るとフキノトウ、コゴミ、ウド、タラの芽、コシアブラ、ワラビなどが次々と顔を出します。これらの山菜を食べると春が来たなと感じます。特にウド、タラの芽、コシアブラは大好物ですが、いずれもウコギ科の植物です。今回は、薬用人参(朝鮮人参・高麗人参)と同じウコギ科に属するエゾウコギをご紹介します。

エゾウコギは、日本では北海道のみ自生することから蝦夷ウコギと呼ばれています。ロシアではエレウテロコック、アメリカではシベリア人参(Siberian Ginseng)、中国では刺五加(シゴカ)と呼ばれ、洋の東西を問わず優れた薬効を持つ植物として広く利用されています。中国名の「刺」は小枝にある多数のトゲ、「五」はウコギの5枚の小葉に因みます。

生薬「刺五加」(根茎)
生薬「刺五加」(根茎)

生薬「五加皮」(根皮)
生薬「五加皮」(根皮)

生薬としては、根茎が中国の植物名と同じ「刺五加」、根の皮は「五加皮」という名前で用いられています。中国では約2000年前から用いられているといわれています。きょ風湿、強筋骨、強壮作用があり、関節痛や筋肉痛、腰や膝の筋力低下などに用いられてきました。また、五加皮酒は不老長寿の薬酒としても知られています。

しかし、エゾウコギが注目されはじめたのは比較的最近で、1960年代に旧ソ連で、世界ではじめて抗疲労作用、抗ストレス、集中力増強などの薬効が見出されました。特に注目されたのが朝鮮人参より優れたアダプトゲン作用にあります。アダプトゲンは適応源または環境適応源とも呼ばれますが、生体にとって悪影響を及ぼす様々なストレスに対して、環境適応力を高め、生体を守る働き(非特異性抵抗力の増強)と理解されています。

更に、宇宙飛行士が宇宙船内でエゾウコギを飲用していたことや、1980年のモスクワオリンピックでメダルを独占した多くのソ連選手がエゾウコギを飲用していたことが話題となり、世界的に注目を集めるようになりました。日本でも長野オリンピックで活躍した日本ジャンプ陣やスピードスケートの選手が飲用していたそうです。

主要成分は、エレウテロサイドE(リグナン)、エレウテロサイドA(サポニン)、エレウテロサイドB(クマリン配糖体)などで、エレウテロサイドEにはβ-エンドルフィンの分泌を促進し、強い抗ストレス作用があるとされています。

これらの作用の他、感冒・インフルエンザ予防、免疫力改善、糖尿病改善などの作用が確認されてきています。山菜としても用いられるエゾウコギは、今後の研究に期待が持たれる医食同源の代表選手である植物といえるでしょう。

鳥羽 定良(養命酒中央研究所・商品開発第1グループ グループリーダー)