HOME > 健康の雑学 >  【2011年11月号】 本と健康の雑学

本と健康の雑学


気になる本を数冊。テーブルや枕もとに積み上げて、半日ほど(あるいは丸一日?)かけて、じっくりと読み進めていく──忙しいインターネット時代ですが、この素朴な楽しみは忘れたくないですね。今月は読書にまつわる雑学です。


悩み深き文豪たちの不養生


時代を経ても色あせない傑作を執筆した文豪たち。しかし作家によっては、不養生な時期を過ごしていた人も少なくありません。

『走れメロス』『斜陽』『人間失格』で知られる太宰治は一時期、依存性があるといわれた麻薬鎮痛剤の中毒に陥っていました。27歳の頃、『晩年』という作品で芥川賞候補となった際、選考を担当していた川端康成に、「芥川賞を取らせてほしい」と懇願した手紙と本を送っています。一説には薬代の借金などがかさみ、芥川賞の賞金で返済しようという意図もあったといいます。

しかし結果はあえなく落選。その後、太宰は周囲のすすめによって入院して療養に励み、晴れて完治して退院します。この時の経験は、後の『人間失格』執筆に大きな影響を与えたそうです。

薬ではなく、“女”に走ったのが歌人・石川啄木。啄木といえば「はたらけどはたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり ぢつと手を見る」などの歌が有名ですよね。一見すると、朝から晩まで働きづくめの庶民が、深く皺の刻まれた、土まみれ油まみれの手を見つめている情景が浮かびますが、実際の啄木はそんな暮らしとは無縁でした。確かに家族の扶養が負担となり、啄木自身が貧窮にあえいでいたのは事実ですが、その生活ぶりはお世辞にも慎ましいとはいえるものではなく、知己だった言語学者・金田一京助からお金を借りては浅草で芸者遊びをするなど、遊興に費やしていました。「はたらけど〜」の歌は、“身から出た錆”に対する嘆き、とでもいいましょうか。

一方、勤勉で真面目なイメージのある夏目漱石。しかし、彼にも不養生のタネはあります。

漱石は若かりし頃から、胃の病を患っていました。しかしながら、甘いモノを食べると痛みが少し和らぐことをよいことに、ジャムをひと瓶まるごと舐めてしまったり、夫人の留守中に菓子を食べたりする始末。「甘いモノ好き」「食いしん坊」が漱石の不養生のタネでした。明治43年には、胃潰瘍の診断を受けて入院。当時は、温熱療法として胃の上に温めたコンニャクを置いていました。そのコンニャクですらちぎって食べてしまい、看護婦に叱られることも。文豪なのに、まるで子どものようでもありますね。

その不養生が災いしてか、転地療養先の修善寺温泉で大量吐血し、生死の境をさまよいます。漱石の詠んだ「秋風や ひびの入りたる 胃の袋」という句が、その苦悩ぶりを象徴していますが、吐血する直前の療養先でも朝からご飯3杯を生卵で平らげていたのだとか…。

なんとか生死の境から脱し、東京の病院に戻って小康状態となった漱石。その時に詠んだとされるのが、「腸(はらわた)に 春滴るや 粥の味」という実にかろやかな句でした。

水木しげるが戦地に持参した本とは?


2010年のNHK朝の連続小説『ゲゲゲの女房』で、世代を超えて有名になった水木しげる氏。今月の特集でも「健康、すなわち眠ること」という氏のポリシーをご紹介しましたが、その精神は子どもの頃から召集された戦時下を経て現在に至るまで、常に一貫しているところがスゴイところです。

小学校時代は、寝坊に加えて朝から大飯を食らうため、常に2時間目からの出席。もちろん母親も教師も叱りますが、「馬の耳に念仏」でそのうち誰も怒らなくなったんだとか。さらに戦時下、召集を受けて部隊に配属しているときも、朝の点呼のラッパに間に合わず、上官のビンタを食らっていたそうです。

起きているときはどのように過ごしているかというと、「飄々」という言葉がピッタリ当てはまります。好きなこと(絵を描く事)に没頭し、興味がないものには見向きもしない。ラバウルに召集された際も、オウムの群れの美しさに感動し、原住民達と仲良くなり、終戦時には「現地除隊して彼らと暮らしたい」と上官に告げたほどです。あまりにも飄々、平然としていたので将校に間違えられ、先輩にあたる兵に風呂で背中を流してもらったというエピソードも、その性格を物語っていますね。こうした性格も、長寿の秘訣なのかもしれません。

もちろん、飄々とする一方で、「いつ死んでもおかしくない」という恐怖は常に抱いていたといいます。召集される前、「戦争にいけば間違いなく死ぬ」という想いに駆られた水木氏は、哲学書を大量に購入して読み漁りました。その中で最も好きになったのが、ヨハン・エッカーマン著『ゲーテとの対話』です。

同書は、晩年のゲーテと親しかったエッカーマンが交わした、含蓄のある会話を記録したものです。「自然は常に真実を晒しており、常に実直であり、常に厳しい。自然は正しいのだ。もし過失や誤謬があるなら、それは人間のしわざだ」など、現在にも通じる名言が宝石のように散りばめられた同書の上・中・下巻を、水木氏は戦地にまで持参しました。

ストレス解消に「お風呂で読書」!


「読書離れ」が叫ばれて久しい昨今です。文化庁の平成20年度「国語に関する世論調査」によると、雑誌や漫画を除いて1か月に本を「読まない」と回答した人は全体の46.1%。平成14年度の調査で「全く読まない」と回答した人は37.6%ですから、また少し読書離れが進んだといえるかもしれません。

ただし、読書には様々な健康効果が期待できるとの声もあります。米国アルバート・アインシュタイン医科大学の研究では、読書やクロスワード、カードゲームなどの習慣があると、認知症に伴う急速な記憶力低下を遅らせるという結果が導かれました。また、英国サセックス大学の研究チームが、心拍数などの数値からストレスの軽減度を測る実験を行ったところ、音楽を聴いたり散歩したりするよりも読書のほうがストレスを解消する結果となりました。

読書がストレス解消になるのなら、お風呂で本を読めばさらにリラックスできそうですね。でも、本が濡れてしまうのは困るなあ、という方におすすめなのが、世界思想社から出版されている「風呂で読むシリーズ」です。

このシリーズの本は普通の紙ではなく、合成樹脂でできた特殊な紙を使用しているので、濡れても問題ありません。『風呂で読む 宮澤賢治』や『風呂で読む 与謝野晶子』『風呂で読む 李白』などが刊行されています。特徴といえるのは、小説よりも俳句や詩などのラインナップが多いこと。じっくり筋を追う本よりも、好きなところから好きなだけパラパラと読める本のほうが、毎日のお風呂には向いているからかもしれませんね。

ワイン風呂やコーヒー風呂など、数々の“変わり種”風呂で知られる温泉テーマパーク「箱根小涌園 ユネッサン」でも、2011年11月30日(水)まで「お風呂図書館」と銘打ったイベントを開催しています。こちらで用いられる本は、(株)フロンティアニセンの「お風呂で読める本」。素材はプラスチックの一種であるポリ塩化ビニル製。綴じ部分もリング綴じなので、読んでいる最中にページを抑えておく必要がありません。半身浴をしながら、夏目漱石や太宰治など国内外の有名な文学作品を読むことができます。