HOME > 健康の雑学 > 【2010年4月号】東洋ハーブと香りの雑学


東洋ハーブと香りの雑学


薬草・香草として呼ばれる東洋のハーブをご紹介。さらに、日本人と「香り」についての雑学もお送りします!



野菜としてもお馴染みの「紫色の、蘇らせる薬」とは?


今月の特集でも少し触れましたが、ハーブとはすなわち、東洋でいうところの薬草・香草のこと。私達の身の回りにも実にたくさんのハーブがあります。

たとえば、棗(なつめ)。棗はクロウメモドキ科の落葉高木で、中国北部が原産です。欧米に渡った棗は、当初のど飴としても使われていたとか。韓国では、有名な鶏肉料理「サムゲタン」の材料として欠かせません。

さらにインドのカレー料理に欠かせないハーブ「カルダモン」の和名は「小荳蒄(しょうずく)」。健胃作用のある生薬として用いられてきました。ところ変わって中東では、種子の粉末などを加えたカルダモンコーヒーとして愛飲されています。身体を冷やす作用もあるため、熱い中東では重宝されているようです。

私達にとって馴染み深い野菜も、ハーブの一種といえるものがあります。代表的なものがシソです。防腐効果とともに、食欲を増進させる薬味として日本でも古くから利用されてきました。臭みを消す効果もあるため、お刺身料理にはつきものですよね。古くは中国の「三国志」などにも登場する名医、華佗(かだ)が、食あたりを起こした人々に対してシソを原料とした薬を与えたとか。紫色の「蘇らせる」薬として「紫蘇(シソ)」になったという説もあります。

他にもセリやヨモギ、菊、キキョウなどもハーブに属す植物です。知らず知らずのうちに、私達日本人もハーブに囲まれて過ごしていたわけですね。

風流に香りを楽しんだ光源氏


ハーブは、香りをかぐことによってもその効能を享受することができます。では、日本人はいつ「香り」と出会ったのか?それこそ太古の昔も、野に咲く花や植物の香りを楽しんでいたのかもしれませんが、いわゆる「香」が日本に伝わってきたのは飛鳥時代、仏教とともに伝来したといわれています。

伝来については、「日本書紀」にも興味深い記述があります。淡路島に東南アジア方面から「沈香」の木が漂着し、焚き火にくべたら良い香りがしたので朝廷に献上した、というものです。実際に香木が尊ばれていた事実は、東大寺の正倉院に「黄熟香(おうじゅくこう)」なる香木が収められていることからもわかります。黄熟香には「切り取った跡」があり、足利義政、織田信長、明治天皇らも切り取ったといわれています。

さて、飛鳥時代から奈良時代にかけては、仏教などの儀式で使われたり、薬として利用されていましたが、平安時代になると「香りをたしなむ」文化が生まれました。これは仏教儀式に用いられる「香」とは別に「薫物(たきもの)」と呼ばれ、部屋で焚いて楽しむ「空薫物(そらだきもの)」が平安貴族の間で流行しました。一説によると、薫物を日本にもたらしたのは鑑真といわれています。また、薫物は固有の植物の香りではなく、白檀や乳香など数種類を混ぜ合わせて「オリジナル」に仕上げたものです。つまり、家々に伝わる薫物は、家ごとに異なるということ。調合することによって、香りに「個性」が生じたわけです。

個性的な香りを楽しむ文化が垣間見えるのは、かの「源氏物語」。香りに関する記述は物語中にいくつも登場しています。手紙に香りがしみこませてあったり、光源氏が女性の衣服の香りで、その女性が誰かを察したり・・・さらに、薫物を持ち寄って香りの優劣を競う「薫物合わせ」に興じる様子も事細かに書かれています。


勝負事に打ち勝つために入りたいお風呂とは?


室町時代といえば、茶道や華道が確立したといわれる時代。香りを楽しむ「香道」もまた、この時代に確立されました。

作法を以って楽しむことは茶道などと同じ。香りは嗅ぐものではなく「聞く」もの。よって香りを楽しむことは「聞香(もんこう)」などと呼ばれます。茶道と一線を画しているといえるのが「組香(くみこう」と呼ばれるもの。いわば「香り当て」です。香道には「六国五味(りっこくごみ)」と呼ばれる沈香の分類があります。六国とは原産国。五味とは、香りを「味」にたとえたもの。たとえば「伽羅」は、六国がベトナムで、五味が「苦」。「羅国(らこく)」は六国がタイで、五味が「甘」。これらの香りや、香りの組み合わせを当てるのが「組香」です。また、単に香りを当てるにとどまらず、和歌や物語になぞらえた組み合わせを楽しんだりと、実に奥深く、趣きがあります。

では、香りの楽しみが一般庶民にまで浸透したとなると、江戸時代になってから。鬢(びん)付け油として「伽羅油」が重宝されました。奈良時代からあった、香木などを袋に入れて携帯する「匂い袋」も江戸時代には庶民にも出回ったといわれています。また、芸者達の間では、抹香や線香を焚いて匂いを部屋に漂わせるとともに、これらのお香がなくなったら接客時間終了、という時計的な使われ方もしていました。

そしてもうひとつ、現在の私達も知っている「香りの楽しみ」といえばお風呂。冬至には湯船に柚子を浮かべた「柚子湯」、端午の節句には菖蒲を浮かべた「菖蒲湯」が有名ですね。

菖蒲湯に関しては、もともと「尚武」、つまり武道など“勝負事に勝つ”ことの大切さが込められているとか。葉の形が剣を彷彿とさせるから、ともいわれています。石川県の山代温泉では現在も「菖蒲まつり」が行なわれており、男衆は菖蒲を詰めた俵を引きずり歩きます。俵が擦り切れて中から菖蒲が出てきたら湯壷に入れ、その湯に一番に入った人はその年、災厄から逃れられるというもの。厄除けとしての意味合いもあるんですね。もちろん、香りも存分に楽しめます。ちなみにアヤメのような花が咲く「花菖蒲」は別のもので、「菖蒲」はサトイモ科の植物です。

東洋ハーブの味と香りで癒しを演出

≪ハーブの恵み≫
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