HOME > 生薬ものしり事典 > 【2020年7月号】古代ローマの恋人たちに愛された「グラジオラス」

生薬ものしり事典94
古代ローマの恋人たちに愛された「グラジオラス」

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グラジオラスの根は湿布薬の材料に

グラジオラスは初夏から晩夏までの長期間、花が咲いているので、庭に植えていると長く楽しめます。植物の中で花の咲く時期が長いものは、露地栽培種が比較的多いといえます。
グラジオラスは南アフリカ原産の原種を改良した、アヤメ科の園芸種の多年草草本で、多くは切り花として観賞されます。高さ80~100cmに成長し、球茎は大きな平球形で、茎は強直緑色、下は通じて葉を持ち、上は花序となります。葉は青緑色の剣形で、2列になって直上します。夏に茎頂から20数個の花がつき、ロート状の大きな花が下方より上方に咲き上がります。
グラジオラスが園芸草花として注目されるようになったのは、18世紀末に南アフリカの喜望峰周辺からイギリスの「キューガーデン」に移植されてからです。日本には江戸時代末期の1844年にオランダ人より、「レリオナルシス」の名で長崎に伝えられた記録があります。その種は絶滅してしまいましたが、当時出版された松平菖翁著の『百花培養集』(1847年)には詳しい栽培方法が記されています。
現在の種は明治になって輸入されたものです。当時は「トウショウブ」と呼ばれ、珍しい花として普及しました。多くの品種が生まれており、早咲き種と夏咲き種に分けられ、花の色は赤、黄、白、桃、斑入りなど多彩です。
グラジオラスの類似植物は古くからあり、ギリシア、ローマ時代に栽培されていた記録があります。世界では200種ほど知られていますが、原種は南アフリカの喜望峰とされています。『WILD FLOWERS OF SOUTH AFRICA』のWild gradiolusの項には、「高さ1.5mに成長し、球茎から毎年生育し、草原や灌木地帯に多い」と記載されています。


グラジオラス


今日では「グラジオラス」の名が一般化していますが、日本名の「オランダアヤメ」は西洋から渡来したことを意味しています。外形が菖蒲に似ていることから、漢名は「阿蘭陀菖蒲」「唐菖蒲」などと表記されます。
別名には「段咲菖蒲」「昇り菖蒲」「流星」「龍星花」などがあり、いずれも花の姿に由来します。
学名はGladiolus gandavensisで、属名はgladius(剣)。葉の形が古代ローマの剣に似ていることに由来します。種小名はベルギーの地名です。
日本でグラジオラスが詩歌の対象になるのは明治以降です。


雨あがり 庭に残りし 水たまり グラジオラスの 影のうつれる

石崎 彰司

刃のごとく グラジオラスの 反りにけり

佐久間 慧子


薬用には、グラジオラスの根が外用の湿布薬の材料に使われています。
花言葉は「密会」「用心」「忘却」「勝利」です。古代ローマ時代に人目を忍ぶ恋人たちがこの花の数で密会の時間を知らせていたことが、花言葉の由来といわれています。


出典:牧幸男『植物楽趣』