春の訪れをいち早く知らせる早春の風物詩 |
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2月になると日脚はのびてきますが、気温上昇を肌で感じられないため、まだ春は遠いと感じてしまうかもしれません。しかし、そうした中でもネコヤナギは確実に芽を膨らませています。早春に、「芽りん」と呼ばれる光沢のある厚い皮を脱ぐように、白い絹毛の密生した花を咲かせ、春の訪れをいち早く知らせてくれます。 ネコヤナギは「カワヤナギ」「エノコロヤナギ」とも呼ばれます。植物学者の牧野富太郎博士は、「ネコヤナギは花穂を猫の尾になぞらえたもの。カワヤナギは水辺に生えるからで、エノコロヤナギは、犬の子のヤナギという意味で、これも花穂を犬の尾になぞらえたものである。漢名の水柳は別もの」と述べています。7~8世紀に編纂された『万葉集』には、「川楊、河楊」の名で、早春の河畔の趣を詠んだ歌が4首登場しています。カワヤナギは江戸時代までの名称で、明治時代以降はネコヤナギの呼び名が一般的になり、詩歌に詠まれることが多くなりました。 霧雨の 細かにかかる 猫柳 つくづく見れば 春たけにけり 猫柳 高嶺は雪を あらたにす 水の音 暖かそうに 猫柳
ネコヤナギは園芸植物として人気があるため、品種改良が進み、枝の立っている普通種を「タチネコヤナギ」、枝の下垂する変種を「ハイネコヤナギ」、花穂の毛が黒い「クロヤナギ」などの種類も作られています。枝が立つ種類を「楊」、枝が下垂する種類に「柳」の字を当てて区別する場合もあります。ヤナギの名の由来は、矢を作る「矢の木」から生まれたという説もありますが、折口信夫博士によると、神聖な「斎の木」によると述べており、苗代の水口に挿し、田の神の依代(よりしろ)にふさわしい木としています。 出典:牧幸男『植物楽趣』 |