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生薬ものしり事典65 猫の尾に似た花穂が特徴の「ネコヤナギ」


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春の訪れをいち早く知らせる早春の風物詩

2月になると日脚はのびてきますが、気温上昇を肌で感じられないため、まだ春は遠いと感じてしまうかもしれません。しかし、そうした中でもネコヤナギは確実に芽を膨らませています。早春に、「芽りん」と呼ばれる光沢のある厚い皮を脱ぐように、白い絹毛の密生した花を咲かせ、春の訪れをいち早く知らせてくれます。
ネコヤナギは中国、朝鮮半島、日本に自生するヤナギ科の落葉低木です。高さは50cm~2mほどで枝が多く、雌雄異株で雄花は約4cmの長い花穂を、雌花は約3cmの花穂を咲かせます。雄花は花穂に黄色い花粉を付けた姿が美しいので、生花の花材によく使われます。雌花の成熟した種子は「柳絮(りゅうじょ)」と呼ばれ、白毛があるため春風の中を雪のように舞います。その様子は中国では春の風物詩になっていますが、日本では湿気が多いため、雪のように舞うことは少なく、樹下に留まってしまうことが多いようです。


ネコヤナギ


ネコヤナギは「カワヤナギ」「エノコロヤナギ」とも呼ばれます。植物学者の牧野富太郎博士は、「ネコヤナギは花穂を猫の尾になぞらえたもの。カワヤナギは水辺に生えるからで、エノコロヤナギは、犬の子のヤナギという意味で、これも花穂を犬の尾になぞらえたものである。漢名の水柳は別もの」と述べています。7~8世紀に編纂された『万葉集』には、「川楊、河楊」の名で、早春の河畔の趣を詠んだ歌が4首登場しています。カワヤナギは江戸時代までの名称で、明治時代以降はネコヤナギの呼び名が一般的になり、詩歌に詠まれることが多くなりました。

霧雨の 細かにかかる 猫柳 つくづく見れば 春たけにけり

北原白秋

猫柳 高嶺は雪を あらたにす

山口誓子

水の音 暖かそうに 猫柳

河合笑子


ネコヤナギは園芸植物として人気があるため、品種改良が進み、枝の立っている普通種を「タチネコヤナギ」、枝の下垂する変種を「ハイネコヤナギ」、花穂の毛が黒い「クロヤナギ」などの種類も作られています。枝が立つ種類を「楊」、枝が下垂する種類に「柳」の字を当てて区別する場合もあります。ヤナギの名の由来は、矢を作る「矢の木」から生まれたという説もありますが、折口信夫博士によると、神聖な「斎の木」によると述べており、苗代の水口に挿し、田の神の依代(よりしろ)にふさわしい木としています。
ネコヤナギの学名はSalix gracilistyla で、属名はラテン語の古名(ケルト語のsal=近いとlis=水)から来た合成語だろうといわれています。種小名は花柱が細長いという意味です。花言葉は「自由」です。
ネコヤナギは花期を終えて葉が生じる頃には関心を示す人がほとんどいなくなります。華やかさと孤独の両面性のある植物といえるかもしれません。
薬用には葉や皮を痛風に役立てたといわれ、中国では柳絮を羊毛に代えて褥(じょく)を作り、小児を寝かせるとよいと伝えられています。


出典:牧幸男『植物楽趣』