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生薬ものしり事典53 建材に欠かせない日本特産の「スギ」


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虫刺されや肩こりにも使われた生薬

立春になれば暦の上では春ですが、まだ枯れ木が多く、緑は常緑樹に限られています。そんな季節を彩る常緑樹としておなじみなのが「スギ」です。
スギといえば、この季節に始まる花粉症を連想して嫌う人が多いかもしれませんが、スギは日本特産の植物で、古くから日本人の生活になくてはならない存在でした。札幌付近が北限、屋久島が南限といわれており、高さ45m、直径2mほどの巨木に成長することもあります。


スギの花


雌雄同株で、春に開花します。米粒大の雄花は枝の端に群生し、緑色小球形の雌花は小枝の先につきます。花粉症の原因になる花粉は、雌花が受粉するように雄花が飛ばします。花言葉は、「雄大、堅実、堅固」です。
初夏になって新葉が生育するにつれ、古い葉は一連ずつ房のまま落葉します。さらに秋になると、雌花の球実が成熟してこげ茶色になり、鱗片がはじけて種を放出します。


スギにはさまざまな変種があります。枝が長く垂れさがる「猿猴杉(えんこうすぎ)」、茎が扁平な「綴化杉(てっかすぎ)」、小枝が長い「糸杉」、葉が淡黄色の「黄金杉」、葉が細長い「薩摩杉」、葉が硬い「広葉杉(こうようざん)」などがよく知られています。


スギの名の由来は、幹がまっすぐに直立していることから、「ス(直)」+「キ(木)」=「スギ」となったという説や、「すくすく育つ木」だからスギとなったという説があります。 古名は「真木(まき)」といい、漢名は「倭木」です。「杉」という字を用いることが多いけれど、牧野富太郎博士によれば、「杉」とは「広葉杉」のことです。ほかにも「沙木(しゃぼく)」「孔雀松」「椙(すぎ)」と表記されることもあります。


『万葉集』には、スギが登場する歌が多く、そのほとんどが神との関係を詠んだ歌です。樹齢が長く、樹相が円錐形で細長く、天を突くように成長する巨木の姿に、いにしえの人々は“神の息吹”を感じたのかもしれません。古い神社の境内にもスギがよく繁っています。また、箱根や日光、鎌倉などの旧街道にも杉並木が見られます。


日光の杉並木


スギは木目が通っているので、古くから建材、桶、箱などに活用され、樹皮は屋根葺材として、葉は線香や抹香の原料に用いられてきました。 薬用としては、若葉のつぶし汁や煎じた液を、疥癬(かいせん)や腫れもの、火傷、虫刺されに外用したり、服用して利尿に用いたりされてきました。また、スギ脂を和紙に伸ばし、肩こりや五十肩に貼付して用いられることもありました。


出典:牧幸男『植物楽趣』