HOME > 生薬ものしり事典 > 【2016年12月号】寿司に欠かせない「クマザサ」

生薬ものしり事典51 寿司に欠かせない「クマザサ」


ライン

防湿・防臭・殺菌作用のある生薬

冬山では多くの木々が葉を落としますが、その中で目立つのが「クマザサ」の緑です。積雪が少ない場所や、風の道にあたる所では、葉の緑が白く変色し、隈取ができ、美しいコントラストを見せます。雪下のクマザサには、風があたらないので、白い隈取は見られません。


クマザサ


「熊笹のうす黄が纏う山の上の濃き藍色の空のするどさ」木下利玄
「残雪を弾き出でたる熊笹ぞ」小沢實
古くから詩歌や俳句にもクマザサが詠まれていますが、「熊笹」と書くのは当て字の漢名です。植物学者の牧野富太郎博士は、「葉に白緑が生するところから隈笹というが、縁取笹あるいは焼きのある刀身に見立てて焼刃笹ともいわれている」と述べています。
『古事記』や『万葉集』の時代から、ササはさまざまな呼び名で表現されており、万葉仮名では、「笹」「小竹」「佐佐」「薦」「篠」などが使われています。
ササの語源は「ささやかな竹」に由来しています。ササは枯れるまで皮を着けているのに対して、竹はタケノコの成長後に皮が脱落するものといわれています。ただし、植物学的にササと竹の厳密な区別はありません。


長野県には古くからササが多く生育しており、「アズマザサ」や「チシマザサ(根曲竹)」「チマキザサ」類をクマザサと呼んでいます。高さは2m以上に成長するものもあり、特にチシマザサのタケノコは珍重されています。
クマザサはイネ科の常緑竹ですが、材質は木に近く、よく繁茂しますが、花が咲くと枯死するため、「木でも花でもない特異植物」といえます。
生薬としてのクマザサの特徴は、防湿、防臭、殺菌作用があることです。寿司に生のクマザサが使用されるのは、お寿司の乾燥を防ぎ、ネタの匂いが他に移らないようにするためです。ただし、乾燥したクマザサには、この効果はほとんど期待できません。


出典:牧幸男「植物楽趣」