HOME > 生薬ものしり事典 > 【2015年11月号】キノコと虫が合体?!「冬虫夏草(トウチュウカソウ)」

生薬ものしり事典38 冬虫夏草(トウチュウカソウ)


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今回の「生薬ものしり事典」は、過去にご紹介した生薬百選より「冬虫夏草(トウチュウカソウ)」をピックアップしました。

古来より不老長寿の秘薬として重用

秋といえば、キノコが美味しい季節ですが、古来よりキノコは薬用として食されてきました。中国では、生薬をはじめ、薬膳料理などにキノコが用いられてきました。
キノコと虫が合体した珍奇な生物「冬虫夏草」も、古来より東洋医学の生薬として不老長寿、強壮の秘薬として重用され、鎮静、鎮咳薬として病後の衰弱、肺結核などに用いられてきました。1757年に清の呉儀洛が著した医学書「本草従新」にもその名が記されています。日本には1728年(享保13年)に中国から輸入され、以来その名が知られるようになりました。

冬虫夏草1

冬虫夏草とは、キノコが昆虫やクモに寄生し、体内に菌糸の集合体である菌核を形成して、さらに昆虫の頭部や間接部などから棒状の子実体を形成したものの総称です。冬虫夏草という不思議な名の由来は、冬は虫で、夏になると草(キノコ)になると信じられていたことから、冬虫夏草という名が付けられたといわれています。

冬虫夏草2

一般に、冬虫夏草と呼ばれるものの仲間には、虫ではなく、菌類や高等植物の果実に発生するものも含まれていますが、本来の冬虫夏草は、子嚢菌類、バッカク菌科(Cordyceps sinensis(BERK.)SACC.)とその寄主であるコウモリガ(Hepialus armoricanus OBER)の幼虫の複合体を指します。
冬虫夏草は主に中国の四川、雲南、甘粛、青海、湖北、浙江の各省、チベットなどに分布しています。その大きさによって、「虫草王(ちゅうそうおう)」「散虫草(さんちゅうそう)」「把虫草(はちゅうそう)」の3種に分類され、日本では把虫草が主に輸入されています。

冬虫夏草の主な薬用成分としては、「Cordyceptic acid(キナ酸の異性体)」が7%で、「ステロール(ergosterol、cholesterol、campesterol、sitosterol)」や「抗菌成分cordycepin」などを含むことが報告されています。近年では、化学療法後のガン患者の生活の質(QOL)と細胞性免疫の向上、B型肝炎の患者の肝機能の向上に対しても有効性が認められています。
古くから多くの研究者の注目を集めている冬虫夏草は、今も多くの新種が発見されています。特定の昆虫に、特定の菌類だけが寄生する寄主特異性や、昆虫の生態防御機構を打ち破る仕組みなど、未解明のことも少なくありません。今後、謎に包まれた生態の解明や、新たな薬理作用の発見、新薬への応用など、さらなる研究成果が期待される生薬のひとつです。