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生薬ものしり事典 25 不老長寿の仙人食?! 栄養価が満点の「松の実」


良質な脂質は健脳や
コレステロール低下にも一役

養命酒商品開発センター 白鳥奈緒美 研究員

“不老長寿の仙人食“ともいわれる松の実ですが、食用や薬用になるのは、松カサの麟片の内側にある茶色い殻の中の種子(胚乳)です。
マツ属の植物のうち、食用に適した大きさの種子をつけるのは20種ほどといわれますが、日本に多く分布しているクロマツやアカマツの種子は小粒なので一般的に食用向きではありません。日本で食用に流通している松の実は、中国産の「チョウセンゴヨウ」という種類の松の種子が多いようです。韓国料理の「参鶏湯(サムゲタン)」や「松の実のお粥(チャッチュ)」に松の実が使われるほか、イタリア料理でもパスタソースの「ジェノベーゼ」に松の実が使われます。ただしこれは、「イタリアカサマツ」という松の種子が用いられています。松の実やアーモンドなどのナッツ類とトマトからなるスペイン料理の「ロメスコソース」にも使われ、ネギなどの焼き野菜をソースにつけて食べると香ばしさが引き立って美味しいといわれます。


松の実粥

薬膳的には、松の実には体を温め、気を補い、肌を潤し、咳を鎮め、内臓機能を調節し、脳を活性化する働きがあるといわれます。東洋医学に「脳は髄の海」という言葉がありますが、「髄」は五臓のひとつ「腎」が蓄えている「精」から作り出されるといわれます。また、水分を除いた脳の約6割は脂質といわれ、良質の脂質を摂取することは脳の健康に役立つと考えられます。「腎」を補うゴマやクルミと共に、松の実は良質な脂質に富むことから健脳食としても高い人気があります。
松の実をはじめとする5種の植物の種子と陳皮からなる漢方薬「五仁丸(ごにんがん)」は、各種子に含まれる豊富な油脂が潤いを与えてお通じをよくすることから、お年寄りに多い「腸燥便秘」によいとされます。
脂質は高カロリーなので摂り過ぎには注意しなければなりませんが、ヒトの体内で合成できない「α-リノレン酸」と「リノール酸」は、身体に不可欠な必須脂肪酸です。松の実の脂質には、この「リノール酸」「オレイン酸」などに加え、松の実に特異的な「ピノレン酸」が含まれています。「ピノレン酸」は炎症や痒みの抑制、空腹の抑制、肌細胞の活性、コレステロール値を低下させるといったさまざまな作用があるといわれています。こうした良質な脂質に加え、タンパク質やミネラルも豊富な松の実を、ぜひ食生活に賢く取りいれて健康に役立てたいですね。