HOME > 生薬ものしり事典 > 【2013年11月号】生薬ものしり事典 14 日本の神様も好物?和食に欠かせない伝統食材「海藻」

生薬ものしり事典 14 日本の神様も好物?和食に欠かせない伝統食材「海藻」


和食のだしに欠かせないコンブをはじめ、ノリやワカメ、ヒジキ、モズクなど、海藻は古来より日本人の食生活に大変なじみ深い伝統食材です。海藻は乾物にして長期保存できるうえ、火を通さず水に数分浸すだけで戻るため調理しやすいというメリットがあります。
日本では神社の祭事で神様に捧げるお供え物「神饌(みけ)」にも、コンブやワカメ、ヒジキ、ミル、ノリといった海藻が盛り込まれます。
「伊勢神宮」の第62回神宮式年遷宮が今秋話題になりましたが、伊勢神宮では毎日朝夕2回必ず神様に、米や塩、水、酒、魚、果物などと共に海藻がお供えされています。日本の神様も海藻が好物なのですね。 さて、今回は、海藻の薬効について、養命酒中央研究所の江碕宣久研究員がコメントさせていただきます。

独特の「うまみ」や「ぬめり」に
秘められた健康効果

養命酒中央研究所 江碕 宣久研究員
島国の日本にとって、豊富な海藻類は一般的な食材として食されており、特別なこととも思われませんが、世界的に見れば海藻類を食する文化は一部の地域を除いて珍しいもののようです。ヘルシー志向の昨今、国際的にも日本食への関心が高まり、低カロリーの健康食材としても海藻類は注目されています。海藻には多くの種類がありますが、一般的な食材として我々の口に入るのは、コンブ、ワカメやヒジキ、モズクなどかと思います。 海藻類は生薬としても用いられ、文字通り「海藻」や「昆布」と称されるものがあります。生薬「海藻」には褐藻類のホンダワラが、「昆布」にはマコンブ、ワカメなどが用いられていますが、これらの海藻類を原植物とする生薬はいずれも、その薬性は寒(身体を冷やす性質)、鹹(かん)(塩からい味)で、軟堅作用(堅いものを柔らかくする作用)、利湿作用(浮腫などを改善する作用)があると認識されます。国内で漢方薬に用いられることは稀ですが、その軟堅作用から中国では甲状腺腫、リンパ腺腫などの治療によく用いられています。
ここでは、代表的なコンブについて少し触れてみたいと思います。まず、うま味成分としてのグルタミン酸を特徴として挙げることができます。近年、味の感覚器である舌にはうま味を特異的に感じる受容体のあることが判り、甘味、酸味、苦味などに加えて、うま味は第5の味覚と考えられるようになりました。このうま味には持続的な唾液反射を起こして唾液を増やす作用のあることが明らかになり、ドライマウスの改善に昆布茶を用いる試みなど、その健康効果が注目されています。


また、近年の研究から、ぬめりの成分、アルギン酸、フコイダンなど多糖類の健康作用が明らかになってきています。水に溶けやすい細かい繊維が膨潤してゲル化することにより、お腹の中で糖分やコレステロール、脂肪分などの吸収にブレーキをかけて抑制することが様々な研究により示されています。
海水中からのミネラル分を多く含むことも特徴として指摘することができます。特にヨウ素を多く含むことから、東日本大震災で生じた原発事故の際にも甲状腺への放射性ヨウ素の蓄積を防ぐ目的での摂取が話題になったことは記憶に新しいところです。
日本では普通に食事をしていれば海藻類から必要量のヨウ素は充分に摂取されるため、ヨウ素不足はあり得ないともいわれていますが、偏食による不足やサプリ等による過剰摂取に気を付けなければなりません。また、その薬性が「寒」であることから、身体が冷えやすい方は摂りすぎに注意しましょう。

「海藻」と「海草」はよく混同されがちですが、実は異なるものです。どちらも海産の藻類ですが、根・茎・葉の区別がないのが海藻で、区別があるのが海草です。ミネラル分や食物繊維が豊富でカロリーが低いうえ、水分を吸収するとかさが増して満腹感も得られるため、美容やダイエットに役立てている女性も多いようです。『万葉集』にも海藻を詠んだ歌がたくさん残されており、例えば「比多潟の礒のわかめの立ち乱え我をか待つなも昨夜も今夜も」のように、海中でゆらめく海藻に恋心を例えた歌もあったようです。