HOME > 生薬百選 > 【2011年12月号】生薬百選 93 地黄(ジオウ)


生薬百選 93 地黄(ジオウ)


何年前のことでしょう?私が入社して研究所で働くことになって、最初に下された指令が「地黄の成分研究」でした。その当時、生薬すら扱った事もない私でしたが、仲間や先輩に助けられて何とか成分の抽出作業をしていました。そして、ついに地黄の抽出物から真っ白な結晶が沢山とれたのです。それは地黄の主成分であるカタルポールでした。 私にとって地黄は初めて成分を抽出した思い出の生薬なのです。

地黄はゴマノハグサ科のアカヤジオウやカイケイジオウの根の部分を使う生薬です。この植物は中国北部原産の多年草で、日本では北海道や奈良県で少量栽培されています。初夏に茎を出し、茎の先に筒状の形をした紅紫色の美しい花をつけます。


写真1.ジオウの開花株および掘り出した株(弊社研究所にて撮影)
写真1.ジオウの開花株および掘り出した株(弊社研究所にて撮影)


地黄は補血・強壮の薬として血を補う作用があると言われ、貧血や虚弱体質の改善に使用したり、血が薄くて体力がない人にも処方されます。十全大補湯、八味地黄丸、四物湯など有名どころの漢方薬に配合され、薬酒との相性も良い生薬です。成分は先ほど紹介したカタルポールなどのイリドイド配糖体を多く含んでおり、血糖降下、血流増加、利尿などの薬理作用も知られております。


写真2.生薬「地黄」
写真2.生薬「地黄」


興味深いことに、地黄には様々な加工法があります。生の地黄を水洗いした後にそのまま乾燥させた「乾地黄」、乾燥した地黄に酒を加えて黒色になるまで蒸した「熟地黄」などがあり、加工法による効能の違いによりそれぞれを使い分けているようです。中でも九燻九晒(クジョウクバク)といって醸造酒を加えて蒸しと乾燥を9回繰り返して加工する熟地黄は最高級品として扱われるようですが、なぜ、この様な工程が必要なのでしょう?
最近の研究で、蒸しと乾燥を繰り返すことにより徐々に配糖体と呼ばれる成分の糖が切断され、成分や糖の含量が変化することが分かってきています。成分が変われば効能も変わり、これが地黄を加工法で使い分ける一つの理由であると考えられます。
このように今では科学の力で成分の変化と効能の関係が分かりつつありますが、加工法の違いによって生薬を巧みに使い分けていた古人の知識には驚かされるものがあります。


■ 松見 繁(養命酒中央研究所・基礎研究グループ)