HOME > 生薬百選 > 【2010年11月号】生薬百選 80 菊花


生薬百選 80 菊花


気がつけば今年も残すところ2ヶ月となり、まだまだ涼しいと思っている内にすっかり肌寒い気候になってまいりました。
さて、この季節に咲いている花といえば菊が挙げられます。菊といえば大菊や菊人形といった観賞用の植物と思われがちですが、元々は中国より重陽(後述)の習慣とともに伝わった植物で、当初は菊酒に用いるなど薬用植物としての面が強かったようです。観賞用として発展したのは江戸時代前期頃からで、仕立てなどの鑑賞方法もこの時期に発達しました。また味や香りの良い品種は食用菊として利用されています。


食用菊でなじみのある菊の花(左)と菊花(生薬・右)
食用菊でなじみのある菊の花(左)と菊花(生薬・右)


生薬としての菊は花の部分を乾燥させて用いるのが一般的で、目の疲れや熱を取るのに用いられます。有効成分としてはビタミンB1などのビタミン類が豊富に含まれています。漢方では視力減退・目のかすみに適用される「杞菊地黄丸(コギクジオウガン)」という処方などで用いられています。また健康食品の分野ではブルーベリーやメグスリノキといっしょに配合して、パソコン業務で画面を長時間見つめる人向けのサプリメントに使われています。

ところで別名「菊の節句」と呼ばれている「重陽の節句」というものをご存じでしょうか。五節句「人日(一月七日)、上巳(三月三日)、端午(五月五日)、七夕(七月七日)、重陽(九月九日)」と呼ばれる5つの節句の1つで、旧暦の九月は丁度菊の咲く季節であることから「菊の節句」と呼ばれるようになりました。
元々、陰陽思想では奇数は陽の数とされ、その中でも最大の数である九が重なるという意味で重陽と呼ばれ重要な日とされていました。その日には、菊の花を飾って菊酒を飲んだり、菊の花に綿を被せ菊の香りと菊についた露を綿に移して、その綿で身を清めたりと、様々な行事が催されてきました。
ちなみにこの日付は現代の新歴で、3月3日「ひな祭り」、5月5日「こどもの日」、7月7日「たなばた」さらに1月7日は七草粥を食べる日と符合していますが、9月9日「重陽の節句」の名残りは残っていないようです。


50円硬貨の菊のデザイン
50円硬貨の菊のデザイン


菊は昔から紋様との関わりあいがあり、鎌倉時代に後鳥羽上皇が好んで菊の意匠を用いたことから皇室の紋として、また日本を象徴する花として菊が用いられるようになりました。その後も武家や公家の家紋として用いられ、現代でも日本を代表する花としてパスポートや50円玉、そして勲章に用いられています。


■末次 建太朗 (養命酒中央研究所・商品開発グループ)