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生薬百選 74 菖蒲根(ショウブコン)


ゴールデンウィークが近づき、気候もどんどん暖かくなってきました。ちなみに「五月晴れ」という言葉がありますが、本来は旧暦五月の梅雨の合間の晴れ間を指す言葉だったそうです。これが新暦の五月に当てはめられて今のように五月のさわやかな晴天を指すようになったようです。

五月の空といえばやはり子供の日の鯉のぼりですね。子供の日は端午の節句とも言い、鯉のぼり以外にも様々な習慣があります。その内の一つが、菖蒲の葉を風呂に浮かべて入る菖蒲湯です。なぜ菖蒲なのかというと、そのまっすぐな葉が刀に似ており、邪気を祓うような爽やかな香りを持つ事から男の子には縁起のいい植物とされた為です。


花をつけた菖蒲。葉の中ほどから花が出るような変わった形をしています。
花をつけた菖蒲
葉の中ほどから花が出るような変わった形をしています。


菖蒲の芳香にはテルペンという分類に属する多くの香り成分の他、アザロン、オイゲノールといった香りの成分が含まれています。これらの成分は血行促進、疲労回復に効果があります。またこの根茎を乾燥させたものが菖蒲根(生薬)です。より香りの強いものが良いとされ、漢方では健胃や鎮痛、鎮静に効果を期待して用いられます。
また、昔の端午の節句では蓬や菖蒲といった薬草を摘む風習や、薬草や香料を袋に詰めて贈る習慣がありました。このとき送った袋のことを「薬玉(くすだま)」と呼びました。これが後に祝い事などで割る「くす玉」に変化していったそうです。
ところで、皆さんは菖蒲と聞いてどんな植物を想像するでしょうか?実は一般的にショウブと呼ばれている植物は2種類あるのです。園芸などで栽培され、きれいな花を咲かせるショウブと呼ばれる植物は、ハナショウブと言い生薬に用い菖蒲湯に入れるものとは全くの赤の他人なのです。ハナショウブはアヤメ科の植物ですが、本当の菖蒲はサトイモ科、もしくはショウブ科に属する植物です。葉の形状が似ていることから「ショウブ」と名付けられたハナショウブですが、見た目が派手なことから本家より目立ってしまっています。

菖蒲の花
菖蒲の花
アヤメ
アヤメ
アヤメやハナショウブやに比べると菖蒲の花は地味です。

なんとも不憫な菖蒲ですが、実は昔にも同じ目にあっているのです。菖蒲は古くは「アヤメ」と呼ばれており、現在のアヤメは「ハナアヤメ」と呼ばれていました。そして派手で目立つ「ハナアヤメ」がアヤメとして認知され、仕方なく菖蒲は音読みで「ショウブ」と呼ばれるようになったのです。
二度も名前を取られてしまった可哀そうな菖蒲ですが、この季節くらいは菖蒲湯に入り、爽やかな香りを楽しんで思い出してみてはいかがでしょうか。


■末次 建太朗 (養命酒中央研究所・商品開発グループ)