HOME > 生薬百選 > 【2010年2月号】生薬百選 71 半夏(ハンゲ)


生薬百選 71 半夏(ハンゲ)


今回は、あまりおなじみの名前ではありませんが幾つかの漢方薬に用いられ、日本薬局方に収載されている「半夏(ハンゲ Pinelliae tuber )を紹介します。 日本国内にも広く分布し、田畑のあぜ道などに自生するサトイモ科の多年生植物である「カラスビシャク( Pinellia ternate Breitenbach )」の塊茎が「半夏」として使用されます。塊茎とは地下茎の一部が養分を蓄えて大きくなったものですが、この塊茎の部分のコルク層を除いて乾燥させたものが「半夏」となります。 カラスビシャクは六月のころにサトイモの仲間に多い仏炎苞(ぶつえんほう)のある花を咲かせます(写真参照)。仏炎苞とは仏像の光背にある炎を形どったものに似ていることから名づけられた植物用語ですが、一般的にはミズバショウが仏炎苞のある花としてお馴染でしょうか。


カラスビシャク(6月下旬撮影)
カラスビシャク(6月下旬撮影)
仏炎苞(ぶつえんほう)
仏炎苞(ぶつえんほう)

カラスビシャクは別名「ヘソクリ」とも呼ばれますが、その昔農家のご婦人たちが農作業の合間に雑草として掘り取り、乾燥して薬屋に売って小遣い稼ぎをしていたことからそのように呼ばれたともいわれています。

中国の古い薬物書である神農本草経にも見られる漢方要薬の一つですが、強いえぐ味があり使用には注意を要する生薬として下薬に記載されています。漢方で用いられる生薬にはナツメ(大棗)やヤマイモ(山薬)など食材とも共通する穏やかな作用のものが多くありますが、「半夏」は食材にはならないはっきりとした作用のある生薬の一つといえます。


生薬 半夏(ハンゲ)
生薬 半夏(ハンゲ)


含まれる成分としては、えぐ味に関係するものとして3,4-diglycosilicbenzaldehyde(3,4-ジグリコシリックベンズアルデヒド)、その他、ホモゲンチジン酸,多糖類などが明らかとなっています。
半夏はそのえぐ味があるためか単独で使用されることはありません。他の生薬との組み合わせで用いられますが、特に生姜との組合せは半夏の毒性を緩和しその効果を高めるとして漢方では良く用いられます。鎮咳、去痰、鎮吐、鎮静などの目的で、半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、小柴胡湯、小青龍湯、六君子湯などの漢方薬に配合される欠くことのできない重要な生薬の一つとなっています。

■ 江崎 宣久(養命酒中央研究所 副所長)