HOME > 生薬百選 > 【2009年7月号】生薬百選 64 烏梅(ウバイ)


生薬百選 64 烏梅(ウバイ)


梅雨のジメジメとした気候が続き、そろそろ夏の日差しが待ち遠しくなってきた方も多いのではないでしょうか。梅雨という言葉の由来は一説には、梅の実が熟す時期であるから、とも言われています。今回は梅にまつわる話を紹介します。

梅が日本に入ってきたのは弥生時代の頃だといわれています。そしてその花の豊かな香りや実の持つ高い薬効から日本人の生活の一部へと溶け込んでいきました。古くは花の代表格として和歌に詠まれており、「花」といえば梅を指すほどでした。代表的な和歌としては小倉百人一首に収録されている和歌としても有名な紀貫之の「人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞむかしの香に匂ひける」というものがあります。また梅の実も食用として日本の食べ物に古くから取り入れられており、料理の味の加減を「塩梅(あんばい)」と言い、ここから物事の具合のよいことを「いい塩梅」と呼ぶようになりました。

梅の木 6月12日撮影
梅の木 6月12日撮影
梅の実 6月12日撮影
梅の実 6月12日撮影

この梅の実を未熟なうちに収穫し、燻製したものが生薬の「烏梅」です。成分にはコハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸やオレアノール酸などが含まれています。主に健胃整腸に用いるといわれていますが、他にも駆虫薬としても使われていました。そして気になる味の方ですが、烏梅を実際に食べてみると、燻製の独特の風味と梅の酸味が合わさってとても不思議な味がしました。中国の方ではこの烏梅を煮出した汁を「烏梅汁」と言い、コンビニやレストランでも手に入るポピュラーな飲み物らしいのですが、一体どんな味の飲み物になっているのでしょうか…。また、生薬としての用途の外にもこの烏梅はクエン酸が豊富なことから、昔は紅花の染色の媒染剤として使われていました。奈良県の月ヶ瀬というところにある梅林は元々は紅花染めに使う烏梅の為の梅林だったそうです。

烏梅
烏梅


■ 末次 建太朗 (養命酒中央研究所・商品開発グループ)